更新日:2024.05.24
公開日:2024/5/13
会社設立時に必要な印鑑について種類や選び方を解説!
StarMember公認会計士・税理士事務所
代表 山田俊輔(公認会計士・税理士・経営心理士)
あずさ監査法人にて、東証一部上場企業の会計監査、上場準備会社の監査、会社買収時のデューデリジェンス業務等を担当。
2010年に独立開業し、Star Member (スタメン)公認会計士・税理士事務所と株式会社日本会計サービスを立ち上げ、連結売上1,000億円超の社外取締役や売上数百億円~数億円の会社の取締役、監査役などを務める。2017年には野村證券なんば支店アドバイザリーボードメンバーにも選任。
近年ではリモートワークの促進により脱ハンコ化が加速していますが、会社設立時には、原則的に印鑑が必要になります。
以前に比べて印鑑の存在意義は変化してきていますが、印鑑は様々なビジネスシーンで必要になるため、会社を設立する際には、会社の印鑑の種類や役割についてしっかり理解しておきましょう。
ここでは、会社設立に必要になる印鑑の種類を中心に印鑑の選び方や注意点について解説します。
会社設立を考えている方は、ぜひ最後までお付き合いください。
会社設立には原則的に印鑑が必要
会社を設立するには、法務局で法人登記を行う必要があります。
法人登記には「法人実印(代表者印)」の提出が求められるため、登記申請を行う前に代表者印を作成しなければなりません。
一般的には、法人設立登記と同じタイミングで法務局に印鑑届書を提出し、代表者印の印鑑登録を行います。
印鑑登録を行うと印鑑カードを作ることができ、印鑑カードを取得することで「印鑑証明書」が取得できるようになります。
オンライン申請では印鑑の提出は任意
会社設立登記には、代表者印が原則的に必要ですが、令和3年の商業登記規則の改正により「オンライン申請の場合については、代表者印の提出は任意」に変更されています。
この改正により、代表者印を提出しなくても会社設立登記を行えるようになりました。
しかし、会社の代表者印は、取引先との大事な契約や不動産の売買時など、様々な手続きで必要になります。
「代表者印の提出は任意」だからといって、印鑑の作成を先延ばしにしてしまうと、いざ必要になった際に困ってしまいますので、会社設立の際に作成しておくことをおすすめします。
会社における印鑑の役割
会社の印鑑は一般的に4種類に分かれており、印鑑の種類によって利用される用途や役割が異なります。
各印鑑の種類ごとの用途と役割について見ていきましょう。
<一般的な会社の印鑑の種類>
印鑑の種類 | 必要な場面 |
・代表者印(会社実印) | 重要な契約書や官公庁への届出書など |
・銀行印 | 金融機関などでの口座開設など |
・角印 | 見積書や請求書、領収書など |
・ゴム印 | 郵送する封筒など、正式ではない書類に記名する際に利用する |
代表者印(会社実印)
代表者印は、会社の印鑑の中で最も重要であり、会社設立登記や会社が意思決定を行う契約書などに押印する印鑑です。
法務局へ印鑑登録されている印鑑であり、代表者印と印鑑証明書のセットで必要になる場合もあります。会社経営を行う上でなくてはならない印鑑です。
代表者印が利用される場面
代表者印が必要となる場面には次のようなものがあります。
- 法人登記申請(会社設立)
- 不動産の売買契約書
- 抵当権などの設定契約書
- 連帯保証に関する契約書
- 官公庁などの入札に関する届出書類
- 会社の意思決定に関する契約書(企業買収など)
など
銀行印
代表者印は法務局へ印鑑登録されている印鑑であるのに対し、銀行印は金融機関等で会社名義の預金口座を開設する際に登録する印鑑です。
代表者印を銀行印と兼用で使用することもできますが、次のようなデメリットがありますので、銀行印を別に作成した方がいいでしょう。
- 紛失した際のリスクが大きい
代表者印と銀行印を兼用にしてしまうと、印鑑1つで会社の意思決定と金融機関での取引ができるようになってしまいます。
便利になる一方で、紛失や盗難、悪用された際のリスクが大きくなってしまうため、銀行印は別に作成し、それぞれ違う場所で保管したほうがいいでしょう。
- 同じタイミングで使用できない
代表者印は経営に関する場面で使用する機会が多く、一方で銀行印は経理に関する場面で使用する機会が多くあります。
そのため、銀行で印鑑が必要な時に取引先との契約でも印鑑が必要になる場合など、同じタイミングで印鑑が必要な時に対応することができなくなります。
また、経理担当者が印鑑を持ち出す機会も増えるため、紛失のリスクも大きくなってしまいます。
銀行印が利用される場面
銀行印は、銀行に関する取引を行う際に必要になります。具体的には次のとおりです。
- 会社の預金口座の開設
- ATMで可能な取引の上限を超える取引を窓口で行う場合
銀行印を作成するポイント
銀行印の形式に特別なルールはありません。
一般的には、代表者印と同じようなサイズや印面で作成されます。
二層構造になった印面には、外枠に会社名、内枠に「銀行之印」と彫刻し、代表者印と明確に区別します。
代表者印と違う書体で作成すると、区別がつきやすくなるためおすすめです。
角印
角印は、会社の認印のような役割の印鑑であり、法律上における効力もないため、会社にとって法的には重要ではありません。
しかし、使用頻度は他の印鑑に比べて最も高く、頻繁に使う機会の多い印鑑です。
角印の主な役割は「会社が発行した正式な書類であることを明確にすること」です。
会社が作成した書類に角印がなくても、その書類の効力がなくなるわけではありません。
しかし、書類を受け取る側にとっては「角印が押されていたほうが信頼できる」という心理が働きます。
書類を受け取る側に一定の信頼感を与えてくれるという意味で、角印は多くの会社にとってなくてはならない印鑑になっています。
角印が利用される場面
角印は、日常的に利用する書面に使われます。
角印が使用される書類には次のようなものがあります。
- 請求書
- 領収書
- 見積書
- 納品書
- 日常的にかわすビジネス文書
など
角印を作成するポイント
角印には、会社名や屋号を彫刻します。
縦方向に彫刻するのが一般的ですが、アルファベットが会社名に入っている場合などは横方向に彫刻する場合もあります。
角印の印面の語尾には、おくり字として「印」や「之印」という文字を入れることもあります。
印鑑のバランスを考えて入れるかどうかを検討してみましょう。
角印は頻繁に使われ、目にする機会も多いため、彫刻する書体はできるだけ読みやすい書体にした方がいいでしょう。
読みやすく、なじみやすい印象を与える「古印体」での彫刻が人気です。
印鑑のサイズに決まりはありませんが、大きすぎるものは扱いにくいため、一般的には一辺が1.8cm(18mm)から2.4cm(24mm)の正方形が用いられます。
電子印鑑(角印)を準備しておくと便利
請求書や見積書のやり取りは、メールなどデータで行われることも多くなってきています。
帳票をデータでやり取りを行う際、実際の角印を使用するためには一度帳票を印刷し、角印を押し、スキャナーでデータを取り込む必要があるため、時間と手間が必要になります。
このような手間を省くため、最近では角印の電子印鑑が多くの場面で使用されています。
電子印鑑には「印影データを取り込んだもの」と「電子印鑑サービスを利用して作成したもの」があります。
前者は画像データとして帳票に表示するものであり、法的効力はありません。
後者は、電子証明書やタイムスタンプなどのセキュリティを付与することで、電子帳簿保存法に準拠することが可能になります。
近年のビジネスシーンでは、紙ベースの帳票からデータベースの帳票へ急速に移行しています。
印鑑作成時に角印の電子印鑑も一緒に準備しておくことをおすすめします。
ゴム印
ゴム印には、会社名や住所、電話番号が彫刻されたゴム印や日付が変更できるデータ印などがあります。
ゴム製の印鑑で、会社の経理など、会社名などの情報を記載することが多い部署にとって使い勝手のいい印鑑です。
手書きの書類を多く扱う場合には便利な印鑑ですが、近年の電子化に伴い、必要になる場面は少なくなってきています。
ゴム印が利用される場面
ゴム印は日常業務での様々な用途で使用されます。
例えば、封筒の差出人欄に会社のゴム印を押したり、確認済の書類に検収印のゴム印を押したり、使い方は会社によって異なります。
ゴム印を作成するポイント
ゴム印を作成する場合、耐油性のある耐油ゴムが素材のものを選びましょう。
また、インクは油性の朱肉ではなく、水性のスタンプ台を使用することでゴム印を長持ちさせることができます。
ゴム印の印面にほこりなどが溜まるときれいに押印することができなくなるため、こまめに掃除をすることも大切です。
会社設立時に用意する代表者印(会社実印)の選び方
代表者印は、どんな印鑑でもでもいいというわけではありません。
代表者印を作成する際には、次の3つのポイントを意識しましょう。
印鑑のサイズ
代表者印は、法務局の規定により「1cm以上3cm以内の正方形に収まるサイズ」と定められています。
印鑑を作成する印鑑ショップ(はんこ屋)では「1.8cm(18mm)」と「2.1cm(21mm)」が人気のサイズになっています。
印鑑の印面
代表者印の印面についての規定はありませんが、一般的には会社名と役職名を印面とした印鑑が使用されます。
印面は二層構造になっており、外枠に会社名、内枠に「代表取締役印」などの役職名を彫刻したものが利用されます。
彫刻する書体についても決まりはありませんが、偽装や複製を防止するためにも複雑な書体を選んだ方がいいでしょう。
「篆書体」や「吉相体」で代表者印を作成している会社が多いようです。
代表者印の素材
代表者印は、取引先との重要な契約書などに使用される印鑑です。
大事な局面で使用する印鑑ですので、見た目が立派で耐久性のある素材を選ぶようにしましょう。
重要な契約書に押印する印鑑がボロボロのものよりも立派な印鑑の方が、取引先へ与える印象も好印象になります。
また、耐久力がなく欠けてしまい、印面が破損してしまうと印鑑証明書と照合できなくなり、利用することができません。
代表者印は、会社で一番重要な印鑑ですので、立派で耐久性のある素材を選びましょう。
会社設立時に印鑑を作成する際や作成した後の注意点
代表者印や銀行印は会社にとって、とても大事な印鑑です。
印鑑を作成する際や作成した後は次のような点に注意しましょう。
代表者印は印鑑登録を行う
会社を設立する際は、代表者印を押印した印鑑届書を法務局に提出する必要があるため、法務局で代表者印の印鑑登録を行うことになります。
オンラインで登記申請した場合は、印鑑届書の提出は任意になりますので、印鑑登録を行わなくても会社設立を行うことが可能になっています。
そのため「印鑑登録は後でいいだろう」と思われている方もいらっしゃると思いますが、できれば会社設立時に代表者印の印鑑登録を同時に行いましょう。
印鑑登録はビジネスでの契約上のトラブルが発生した際、印鑑登録を行った代表者印が契約書に押されていることで契約が正しく成立していると推定されることになり、トラブル防止に役立ちます。
代表者印や銀行印の保管場所には注意
何度も言うように、代表者印は会社で一番重要な印鑑です。
代表者印は紛失や盗難に細心の注意を払い、他の印鑑や印鑑登録カードと違う場所に保管するようにしましょう。
もし、代表者印を紛失した場合は、早急に法務局へ「印鑑廃止届」を提出しましょう。
そして、新しい代表者印を作成し、法務局で再登録を行いましょう。
代表者印は早めに用意する
会社名が彫刻された代表者印は、印鑑ショップに注文してから納品まで数日~1週間ほどかかってしまいます。
代表者印が間に合わず、会社設立が行えないというケースもありますので、代表者印の作成は余裕を持って行いましょう。
どうしても代表者印の作成が会社設立の日に間に合わない場合は、会社設立登記をオンライン申請に変更する方法や、一度違う印鑑を代表者印として登録し、正式な代表者印ができた段階で変更する方法があります。
まとめ
会社の印鑑は会社を経営し、契約や取引を行ううえでとても重要なものです。
少なくとも代表者印と銀行印、角印は必ず必要になる印鑑ですので、会社設立に間に合うように余裕を持って準備しましょう。
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