公開日:2024/5/28
決算書とは?会社設立時に知っておきたい基礎知識を税理士が解説!
StarMember公認会計士・税理士事務所
代表 山田俊輔(公認会計士・税理士・経営心理士)
あずさ監査法人にて、東証一部上場企業の会計監査、上場準備会社の監査、会社買収時のデューデリジェンス業務等を担当。
2010年に独立開業し、Star Member (スタメン)公認会計士・税理士事務所と株式会社日本会計サービスを立ち上げ、連結売上1,000億円超の社外取締役や売上数百億円~数億円の会社の取締役、監査役などを務める。2017年には野村證券なんば支店アドバイザリーボードメンバーにも選任。
会社の運営を行ううえで最も重要なことは「現状(会社の経営状況)を知ること」です。
会社にどれくらいの売上があり、どれくらいの費用が発生しているのか、会社にはどのような資産と負債があるのかを正確に把握することで、より効果的な意思決定が行えます。
会社の経営状況を正確に知るために作成される書類を「決算書」と言います。
決算書は、経営、将来に対する意思決定、資金調達など、ビジネスを行ううえで重要なツールです。
ここでは「会社設立時に知っておきたい決算書の基礎知識」について詳しく解説します。
会社設立時から決算書を理解していると、会社運営で必ず役に立ちます。
会社を設立して起業を検討されている方は、ぜひご一読ください。
決算書とは?財務諸表とは?
決算書は、会社の決算期時点の会社の財産と負債、一定期間における経営成績を明らかにする書類のことを言います。
決算書の種類は「計算書類」「その他の書類」があり、決算時の法人の確定申告には全ての書類を用意しなければなりません。
「決算書に財務諸表は含まれないのか?」と思われる方もいらっしゃると思いますが、財務諸表は会社法上での「計算書類」のことを指します。
計算書類は、金融商品取引法上の財務諸表とは書類の構成が一部異なりますが、基本的にはどちらも会社の財産負債、経営成績を示すものとして理解しておくといいでしょう。
書類の名称 | 計算書類 | 財務諸表 |
規定されている法律 | 会社法 | 金融商品取引法 |
適用される会社 | 上場企業・非上場企業を問わない | 上場企業 |
書類の種類 |
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1-1.決算書で分かること
決算書は、深く読み解けば読み解くほど、分かることが多くあります。
貸借対照表を見るだけで「どのような財産をどれくらい保有しているか」「キャッシュにゆとりはあるか」「借入の割合は高くないか」など、安全性について把握することができます。
損益計算書では「資本金に対してどれくらい儲かっているのか」など、収益性について把握することが可能です。
その他、経営分析により各種指標を利用して分析することができ、これからの経営改善や意思決定の基礎にすることが可能です。
また、経営分析は金融機関からの融資を受ける際にも利用されるため、経営改善を行い、指標を良くすることで融資対策にも活用することができます。
決算書の種類
会社の決算時に必要になる書類は、会社法上の計算書類である「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算書」「個別注記表」の4つの書類に、税務署への提出が必要な「勘定科目内訳書」「法人事業概況説明書」を加えた書類になります。
これ以外に、提出の必要はありませんが、お金の流れを正確に把握する「キャッシュ・フロー計算書」も作成しておくといいでしょう。
各書類の特徴について見ていきましょう。
2-1.貸借対照表
貸借対照表は、バランスシート(B/S)とも言われ、表の中心線から左側に資産、右側に負債と純資産(資本)が記載されており、右側の合計額と左側の合計額が必ず一致する表になっています。
バランスシートと言われるように、「特定の時期」の資産、負債、純資産のバランスを確認することができます。
貸借対照表を分析することで、会社の健全性をチェックしたり、負債に対して流動性の資産が足りているのかをチェックしたりすることができます。複雑そうに見えても「資産=負債 +純資産」になっていることさえ理解しておけば、貸借対照表を読み解くことが可能です。
会社を人に例えると、現金などの流動資産は血液、建物などの固定資産は骨といった具合に置き換えることができます。
貸借対照表は、会社の健康状態を測る「健康診断の結果報告書」と考えると分かりやすいのではないでしょうか。
2-2.損益計算書
貸借対照表が「特定の時期」を表しているのに対し、損益計算書は「一定期間内」の売上と費用、利益について記載される表です。
いわゆる、会社の成績表が損益計算書です。
損益計算書は、一目見るだけで会社が儲かっているのか、それとも損しているのかが分かります。
前期と比較して分析することで各費用の増減を確認することができ、その要因を予測し、今後の改善へと繋げていくことができます。
また、費用を売上の増減に関わらず一定額発生する「固定費」と売上の増減により変化する「変動費」に区分して分析することで会社の「損益分岐点」を知ることができます。
損益分岐点は、会社の経営状況を把握するための重要な指標になりますので、正確に把握するようにしましょう。
損益計算書を見るうえでの注意点は「損益計算書は現金の流れと必ずしも一致しないこと」です。
損益計算書では利益が出ている場合であっても、売掛金の回収が遅れていたり、借入金の元本返済額が多かったりすると資金繰りが厳しくなってしまいます。
資金繰りが厳しい状態が続くと利益が出ていても倒産してしまう「黒字倒産」になってしまいますので、損益計算書だけではなく、キャッシュ・フロー計算書を併用して分析しましょう。
2-3.株主資本等変動計算書
貸借対照表の純資産の部の変動に着目した表を「株主資本等変動計算書」と言います。
主に当期純利益または当期純損失、剰余金の配当、新株の発行または自己株式の処分などが記載されます。
会社の株主に帰属する部分を抜粋した表であるため、経営分析などで使用されることはあまりありません。
2-4.個別注記表
個別注記表は、貸借対照表や損益計算書における補足情報を一覧にまとめた表です。
重要な会計方針に関する注記、貸借対照表に関する注記、損益計算書に関する注記などが記載され、貸借対照表や損益計算書の数字からでは読み取ることができない情報が記載されます。
注記しなければならない事項は、会社の形態や譲渡制限により異なります。
非公開会社である株式会社(株式の譲渡制限が付されている株式会社)の注記事項は次のとおりです。
【非公開会社である株式会社の注記事項】
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※合同会社の場合は、上記の注記事項から「株主資本等変動計算書に関する注記」が除かれます。
2-5.キャッシュ・フロー計算書
キャッシュ・フロー計算書は、キャッシュ(現金)の流れに着目した計算書です。
損益計算書だけでは知ることができない「現金の流れ」を知ることができ、資金ショートを回避するために重要な計算書です。
事業運営では、売上や仕入のタイミングと売掛金の入金や買掛金の支払いなど、発生から実際に入金や出金になるまでのタイミングにズレが生じます。
損益計算書は発生主義であるため、売上や仕入のタイミングで収益や費用を認識しますが、実際にお金が動くのは1か月後ということもあります。
このタイミングのズレにより、資金が足りなくなってしまうことを防ぐためにキャッシュ・フロー計算書は非常に有効です。
キャッシュ・フロー計算書は、会社の確定申告で税務署に提出する書類ではないため、必ずしも作成しなければならない書類ではありません。
しかし、経営の意思決定や資金ショート回避に役に立つ書類ですので、作成することをおすすめします。
2-6.事業概況説明書
事業概況説明書は、会社の確定申告書に添付しなければならない書類になっており、法人名、納税地、事業内容、期末従業員数の状況、主要科目などを記載します。
事業概況説明書の作成自体は難しいものではなく、他の決算書や税務関連書類を参考に作成することができます。
提出は義務となっていますので、提出を怠ると罰則はありませんが催促される可能性が高いです。
事業概況説明書は、税務署が会社の概況を把握するために使用されます。
また、国税局のシステムに取り込まれ、税務調査先選定の判断基準とされています。
2-7.勘定科目内訳明細書
勘定科目内訳明細書も事業概況説明書と同様に会社の確定申告書に添付しなければならない書類です。
貸借対照表や損益計算書の勘定科目の金額の内訳を記載する明細書になっているため、期末における各勘定の内訳を正確に把握しておかなければなりません。
勘定科目内訳明細書は決算書の内容をチェックすることを目的とした書類です。
相手先との取引と矛盾がないかなど、税務署の反面調査の材料に利用されますので、ポイントを押さえて正確に作成するようにしましょう。
決算書が必要な理由
決算書は、会社の確定申告をするうえで必ず必要になる書類です。
しかし、決算書は税務署への提出以外にも多くの活用方法があります。
決算書が必要な理由を見ていきましょう。
3-1.自社の経営状況を知るため
決算書は「会社の現状」を知ることができる唯一の書類です。
貸借対照表を「健康診断の結果報告書」に例えることができるように、会社の経営状況を知ることができます。
もし、会社が危ない状況に向かっている場合であれば、決算書を分析することでより早く危険を察知し、対策を考えることが可能です。
3-2.株主のため
株主にとって、会社の状況を知ることは重要なことです。
経営者=株主の場合であれば、株主が経営状況をよく理解していると思いますが、経営者と株主が同一でない場合には、決算書を作成し、会社の経営状況を報告しなければなりません。
3-3.金融機関のため
会社が金融機関に融資の申請を行う際には、過去3期分ほどの決算書の提出が求められます。
金融機関は、決算書を分析して融資できるかどうかの判断を行っており、返済能力がないと見なされれば融資審査で落とされます。
融資審査対策には、事前にチェックされる指標を分析し、改善を図ることが重要です。
3-4.税務署のため
会社の確定申告(決算)では、決算書をもとに法人税申告書を作成し、事業概況説明書と勘定科目内訳明細書を添付します。
正確な税務申告を行うためには、正確な決算書の作成が重要になります。
3-5.その他の利害関係者のため
決算書は、株主や金融機関、税務署以外の利害関係者に会社の状況を説明するための役割もあります。
例えば、新規取引先などから信用調査を行われる場合には、決算書で健全性を示すことでポジティブなイメージを与えることができるでしょう。
決算書を作成する流れ
決算書は一朝一夕で作成できる書類ではありません。
日々の取引を集約し、適正な決算仕訳を行い、決算書を作成します。
具体的な決算書作成の流れを見ていきましょう。
4-1.日々の取引を記帳する
「日々の取引を記帳すること」は決算書作成の基本中の基本であり、作業の9割以上を占める重要な作業です。
ひと昔前は、伝票を作成し、転記するという流れで記帳を行っていましたが、最近ではクラウド会計など、手軽で安価に利用できる会計ソフトにより、事務作業量を削減することができるようになっています。
決算書の作成には、日々の取引をなるべくリアルタイムで入力していくことが重要です。
4-2.試算表を作成する
毎月末に1月単位での試算表を作成し、月ごとの経営状況を確認しましょう。
1年に1回、決算時だけ決算書を確認するのではなく、月次決算を行い毎月試算表を確認することで、より早く会社の状況の変化を気付くことができます。
4-3.決算整理仕訳を行う
年次の決算時には、棚卸の入力や減価償却費の入力、消費税額や法人税額等の確定など、決算時にしか行わない決算仕訳があります。
総勘定元帳により、事業期間内の記帳に間違いがないかを確認し、決算仕訳を入力しましょう。
4-4.決算書を作成する
決算仕訳を入力すると貸借対照表と損益計算書ができあがります。
株主資本等変動計算書や個別注記表を作成し、計算書類を完成させ、計算書類をもとに事業概況説明書と勘定科目内訳明細書を作成しましょう。
キャッシュ・フロー計算書については、貸借対照表と損益計算書の完成後に作成することができます。
決算書を簡単に作成するポイント
5-1.会計ソフトを使う
決算書を会計ソフトなしで作成しようとすると多くの手間と時間が必要になります。
簡単に利用できる会計ソフトが発売されていますので、会計ソフトを利用し、できるだけ事務負担を軽減できるようにすることが決算書作成のポイントです。
5-2.法人税や消費税の申告は税理士に依頼する
日々の取引の記帳については、簿記の知識があれば問題なくできると思いますが、法人税申告書の作成や消費税申告書の作成には、会計ではなく税務の知識が必要です。
日々の記帳に間違いがないかを確認するうえでも、会社の確定申告(決算)は専門家である税理士に依頼しましょう。
まとめ
会社設立を検討している方の中には「決算書って何だか難しそう」と感じている方もいらっしゃると思います。
しかし、決算書は、ルールを理解すると難解なものではなくなり、会社をよりよく改善するためのヒントを沢山教えてくれます。
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