公開日:2024/5/28
法人とは?会社設立前に知っておくべき法人の種類や特徴を簡単に解説!


StarMember公認会計士・税理士事務所
代表 山田俊輔(公認会計士・税理士・経営心理士)
あずさ監査法人にて、東証一部上場企業の会計監査、上場準備会社の監査、会社買収時のデューデリジェンス業務等を担当。
2010年に独立開業し、Star Member (スタメン)公認会計士・税理士事務所と株式会社日本会計サービスを立ち上げ、連結売上1,000億円超の社外取締役や売上数百億円~数億円の会社の取締役、監査役などを務める。2017年には野村證券なんば支店アドバイザリーボードメンバーにも選任。
起業するうえで決めなければならない重要な事項の1つに「会社を作るのか、それとも個人事業主になるのか」の選択があります。
「会社を作る」と聞くと株式会社や合同会社を設立することだとイメージしてしまいますが、厳密には「会社を作る=法人格を取得する」ことです。
法人格には、株式会社や合同会社以外にも多くの種類があり、それぞれ特徴が異なります。
ここでは「法人とは何か」について詳しく解説します。
会社設立を検討する際には「法人とは何か」を正しく理解しておくことで、どういった法人の形態で会社を設立すればいいのかが明確になりますので、ぜひ最後までお付き合いください。
法人とは?
法人は「法律の中で人格を与えられたもの」のことを言います。
実際に存在する人ではありませんが、法的に人格が認められる組織や団体のことを法人と言い、法人は私達(自然人)と同様に財産を保有すること、債務を負担すること、契約を交わすこと、裁判の当事者になることなど、目的の範囲内に応じて様々な法律行為を行うことができます。
1-1.個人事業主との違い
「会社を設立する」こととは、法人格を取得し、その法人格で事業を行っていくことです。
個人事業主の場合は、事業主が自然人としての人格で事業を行うことになり、個人名義で財産の取得や負債の負担、契約の締結などを行います。
そのため、事業で生じたものとプライベートで生じたものの境目が曖昧になり、事業で生じた債務をプライベートな資金から補填しなければならない状況が発生することもあります。
一方、会社を設立して法人格を取得すると、法人そのものが主体となり、法人名義で銀行口座の開設や債務を負担、契約の締結などを行うことになります。
これは、個人が全ての責任を負う個人事業主と大きく意味合いが異なります。
例えば、負債が膨れ上がり、事業が継続できなくなった場合、個人事業主で事業を行っているケースでは全ての責任は個人事業主になります。
そのため、債務の返済ができない場合は個人事業主が債務整理を行わなければなりません。
法人で事業を行っているケースでは、法人の種類によって責任の範囲が「有限責任」と「無限責任」に区分されており、株式会社や合同会社のような間接有限責任であれば、出資額以上の責任を負う必要はありません。
ただし、現実的には金融機関等の融資では経営者の個人保証が求められるケースが多いため、借入金が返済できない場合は経営者が肩代わりすることになります。
法人の種類とそれぞれの特徴
法人の種類は「公法人」と「私法人」の2種類に区分され、公法人は「地方公共団体」「独立行政法人」に、私法人は「営利法人」と「非営利法人」に区分されます。
営利法人と非営利法人はさらに細分化されており、法人の種類を一覧にすると次のようになります。
2-1.公法人
公法人は、公共団体とも言われ、公的な業務を行う法人のことを言います。
国や地方の行政などの公の活動を行う組織であり、地方公共団体や独立行政法人などが該当します。
公の法人ですので、個人が公法人を設立することはできません。
2-2.私法人(営利法人)
私法人には、構成員への利益分配を目的とした「営利法人」と構成員への利益分配を目的としない「非営利法人」があります。
営利法人は、個人が起業する場合に設立できる法人格になっており、株式会社と持分会社に分かれています。
持分会社はさらに合同会社、合資会社、合名会社に区分されており、それぞれ法人の特徴が異なります。
【株式会社と持分会社の違い】
株式会社 | 持分会社 | |||
合同会社 | 合資会社 | 合名会社 | ||
出資者の数 | 1人以上 | 1人以上 | 2人以上 | 1人以上 |
出資者の名称 | 株主 | 社員 | 社員 | 社員 |
出資者の責任 | 有限責任 | 有限責任 | 有限責任・無限責任 | 無限責任 |
経営主体 | 取締役会 | 業務執行社員 | 業務執行社員 | 業務執行社員 |
株式の譲渡 | 原則、自由(譲渡制限を除く) | 原則、全社員の同意が必要 | 原則、全社員の同意が必要 | 原則、全社員の同意が必要 |
決算公告 | 必要 | 不要 | 不要 | 不要 |
役員の任期 | 有(最長10年) | 無 | 無 | 無 |
2-2-1.株式会社の特徴
株式会社は株式を発行し、出資者に株式の代わりに資金を提供してもらうことで資金調達を行う法人格です。
株式会社の大きな特徴は、会社を経営する取締役と会社の株主である出資者が分離している点です。
会社の取締役は株主総会で選任され、取締役の中から会社の代表である代表取締役が選任されます。
株式会社では、出資者と経営者が必ずしも同じでなければならないということではなく、これを「所有と経営の分離」と言います。
ただし、出資者は全く経営に関与しないというわけではありません。
出資者には、利益の配当を受ける権利(利益配当請求権)と株主総会に参加して議決に加わる権利(議決権)があります。
議決権(または経営参画権)とは、株主総会などに参加する権利であり、株式会社の経営に関する重要な決議に関して議決権を行使することができ、経営の意思決定に関与することができます。
また、株式会社の出資者は「間接有限責任」です。
出資者が会社の債権者に負う責任は出資額が限度となっており、原則的に出資額以上の責任を負うことはありません。
間接有限責任では、出資者は会社を通して責任を追求されますが、会社の債権者から直接返済請求を受けることはありません。
【株式会社な主なメリット・デメリット】
メリット
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デメリット
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2-2-2.合同会社の特徴
合同会社は比較的新しい法人格であり、2006年の会社法の改正により誕生した会社形態です。
日本では新しい会社形態ですが、米国では「Limited Liability Company」(LLC)として一般的に普及している会社形態です。
合同会社の主な特徴は、合資会社や合名会社と同じ「持株会社」であるため、「出資者が全員社員」です。
株式会社は「所有と経営の分離」が行われているのに対し、合同会社は原則的に「所有と経営は同一」になっています。
そのため、合同会社では出資者と経営者を区分せずに「社員」と言い、社員は原則的に全員で経営を行うことになります。
ただし、社員が複数人いる場合には、社員の中から業務執行社員を選任することも可能です。
業務執行社員を選任することで、株式会社と同じような組織構成で運営することができるようになります。
【合同会社で業務執行社員を選任する場合のイメージ】
社員=株主、業務執行社員=取締役、代表社員=代表取締役 |
合同会社のメリットは、株式会社よりも手間がかからないことです。
株式会社のように株主総会を開催する必要がなく、決算公告の義務もありません。
代表社員の任期もないため、役員の重任登記も必要ありません。
設立に関しても、定款認証が必要ないため、株式会社よりも少ない費用で簡単に設立することが可能です。
デメリットは「認知度が低い」ということがあげられますが、近年は合同会社により会社を設立する人が急増しており、認知度も上がってきています。その他のデメリットとしては、出資比率によらずに利益の配分ができるため、社員同士のトラブルに発展してしまう可能性があることです。
【合同会社の主なメリット・デメリット】
メリット
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デメリット
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2-2-3.合資会社の特徴
合資会社は合同会社や合名会社と同じ持株会社であるため、出資者が全員社員になり、「所有と経営は同一」です。
合資会社の特徴は「社員(出資者)が2人以上必要になる点」で、社員は有限責任社員と無限責任社員で構成され、それぞれ1人以上必要になります。
有限責任社員と無限責任社員は「責任」という面で大きく異なります。
もし、会社が破綻した場合、有限責任社員は自身が出資した金額以上の責任を負う必要がないのに対し、無限責任社員は会社に代わって債権者に債務の返済を行わなければなりません。
無限責任社員は会社の債務を肩代わりしなければなりませんので、とても大きい責任があると言えるでしょう。
以前は、その責任の重さから無限責任社員は経営全般に携われ、有限責任社員は監視権のみで経営に携われないという趣旨のルールがありましたが、会社法の改正によりこのルールがなくなり、全ての社員が業務執行権を持つことになっています。
合資会社のメリットには「経営の自由さ」があげられます。
会社設立の際の定款認証が必要なく、資本金の規定もありません。
また、会社法などの法律に則っていれば自由に定款を定めることができます。
デメリットとしては、無限責任社員の責任の重さと最低人員(社員)の確保があげられます。
他の法人格では、経営者1人でも会社設立できるのに対し、合資会社は少なくても2人以上必要であるため、自分以外の社員を集めなければなりません。
また、全社員が2名の場合に1人が亡くなってしまうと、死亡により社員は退社することになり定員を満たさなくなります。
定款に相続人に関する定めがあれば問題ありませんが、定めがない場合は、合資会社の要件を満たさなくなり、会社の種類が合資会社から合同会社または合名会社に変更になります。
この点では、合資会社は他の法人格と比べて特殊な法人格だと言えます。
【合資会社の主なメリット・デメリット】
メリット
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デメリット
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2-2-3.合名会社の特徴
合名会社は持株会社になるため、出資者が全員社員になり、「所有と経営は同一」です。
合名会社は合資会社と似ている法人格になりますが、社員1人でも運営できる点と、社員全員が無限責任社員になる点が異なります。
社員全員が無限責任社員になり、会社の負債を肩代わりしなければならない責任があるため、法人格の中でも出資者への責任が重い法人と言ってもいいでしょう。
個人事業主の場合も無限責任ですので、イメージとしては個人事業主に一番近い法人格になります。
【合資会社の主なメリット・デメリット】
メリット
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デメリット
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2-3.私法人(非営利法人)
私法人(非営利法人)とは「構成員への利益分配を目的としないことを定款などではっきりと定めている法人」または「共益的活動を目的としている法人」である法人を指します。
私法人は、その特徴により3つの法人格に分類されます。
2-3-1.一般社団法人の特徴
一般社団法人は、営利を目的としない法人ではあるものの、営利活動が全く行えないというわけではなく、活動によって利益を生み出すこともできます。
ただし、利益の分配はできません。
一般社団法人は「人の集まり」に着目した法人格であり、法人設立時に社員が2人以上いることで設立することが可能です。
行政の許認可などは不要であるため、業界団体や介護事業を行う団体などが一般社団法人により運営を行っています。
2-3-2.一般財団法人の特徴
一般財団法人も非営利法人ですが、一般社団法人とは異なり「財産」に着目し、財産の維持・管理・活用を目的とした法人です。
収益活動を行うこともできますが、利益の配当を行うことはできません。
一般財団法人は財産に着目した法人であるため、法人設立時に財産の拠出(300万円以上)が必要になり、拠出した財産は一般財団法人への寄付として取り扱われます。
2-3-3.NPO法人の特徴
NPO法人とは「Non Profit Organization(非営利団体)」の法人格のことを言います。
NPO法人の活動目的は定められており、定めに該当しない事業を行うことはできません。
NPO法人は誰でも設立できるのではなく、特定の機関の審査を受け、認証を得ることでNPO法人を設立することができます。
会社設立をする際の法人格の選び方
法人格には様々な特徴があるため、会社を設立する際には、どの法人格で会社を設立するのかを検討しなければなりません。
会社で営利事業を行う場合は、私法人(営利法人)になり、その中でも出資者が有限責任である「株式会社」か「合同会社」が選択肢になるでしょう。
どのような目的で法人を設立するのかによって、株式会社がいいのか、合同会社がいいのかは異なります。
「株式会社でなくてもいい」という場合は、設立費用が安く、定款認証の手間がかからない合同会社での会社設立をおすすめします。
法人格を選ぶ際の注意点とまとめ
法人格を選ぶ際には、各法人格の特徴、メリット・デメリットを理解し、これから行う事業に適しているかどうかを検討して選択するようにしましょう。
「他の人が株式会社で法人設立しているから」といった理由で選ぶのではなく、今後の事業のことや将来の事業承継のことも視野にいれながらよく検討してみましょう。
「どうすればいいのか分からない」場合には、会社設立の相談も含めて専門家に相談することをおすすめします。
Star Member (スタメン) 公認会計士・税理士事務所は、会社設立の応援団です。
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