公開日:2024/5/28
会社設立前に知っておきたい!インボイス制度とは?
StarMember公認会計士・税理士事務所
代表 山田俊輔(公認会計士・税理士・経営心理士)
あずさ監査法人にて、東証一部上場企業の会計監査、上場準備会社の監査、会社買収時のデューデリジェンス業務等を担当。
2010年に独立開業し、Star Member (スタメン)公認会計士・税理士事務所と株式会社日本会計サービスを立ち上げ、連結売上1,000億円超の社外取締役や売上数百億円~数億円の会社の取締役、監査役などを務める。2017年には野村證券なんば支店アドバイザリーボードメンバーにも選任。
会社設立のタイミングを検討する際「知らなかった」で済まされない重要事項が「インボイス制度」です。
インボイス制度は2023年10月に導入された制度で、「消費税の仕入税額控除」に関するものです。
「会社設立時にインボイス制度に登録するのか」、それとも「消費税の免税事業者として会社設立時にインボイス制度の登録を行わないことにするのか」によって、取引先との交渉方法や会社の消費税の負担、会計処理などが異なります。
会社設立前からインボイス制度のメリット・デメリットを知ることは、会社設立後の経営に大きな影響を与えることになります。
ここでは「会社設立時に知っておきたいインボイス制度の基本」について解説します。会社設立を検討中の方は、ぜひ最後までお付き合いください。
インボイス制度の概要
インボイス制度は、2023年10月より施行された「消費税の仕入税額控除」に関する制度です。
消費税の課税事業者は、仕入先の請求書が「インボイス制度に登録している事業者が発行した、定められた項目が記載されている適格請求書(インボイス)」でなければ消費税の仕入税額控除を行うことができません。
そのため、インボイス登録の有無は自社だけではなく、取引先にも影響することになります。
1-1.インボイス制度導入の背景
インボイス制度が導入された背景には2つの理由が存在します。
1つ目は「消費税率を適正に見分けるため」です。
従来の消費税には、原則的な消費税率である10%と軽減税率である8%が混在しており「どの取引が消費税10%または8%の取引であるのか分かりにくい」という欠点がありました。
この欠点を解決するため、インボイス制度を導入し、取引の内容や適用税率、消費税額の区分の記載を定めることで消費税を正しく処理できるようにしました。
2つ目は「国が消費税を適正に徴収するため」です。
課税売上高が1,000万円未満の事業者や会社設立(開業)後2年未満の場合は、原則的に消費税の免税事業者となり、消費税を納付する必要がなく、売上高にかかる消費税は「益税」として免税事業者の利益になっています。
国の立場からすると、本来納付されるべき消費税が免税事業者の利益になってしまっているため、免税事業者からの仕入に関する消費税から仕入税額控除をできなくすることで免税事業者の益税分も徴収する目的があります。
1-2.インボイス制度で消費税額が変わる
消費税の基本は、売上にかかる消費税から仕入や経費にかかる消費税を差し引いた差額を国に納付する仕組みです。
そのため、仕入先がインボイス発行事業者かどうかによって消費税の納税額が変わってきます。
<取引先がインボイス発行事業者である場合>
<取引先がインボイス発行事業者でない場合(免税事業者)>
取引先がインボイス発行事業者であった場合には、消費者より受け取った消費税100円から仕入時に支払った消費税80円を差し引いた20円を税務署に納税します。
一方、取引先がインボイス発行事業者でなかった場合には、仕入時に支払った消費税は控除対象外となり、売上にかかる消費税から差し引くことができず、税務署に100円を納税します。
ただし、インボイス制度施行後10年間は経過措置が設けられています。
1-3.会社設立後のインボイス制度の影響
会社設立した場合、一定の要件により設立後2年間は原則的に消費税の納税が免除されます。
つまり、インボイス発行事業者に登録しなくても問題ありません。
しかし、会社設立後にインボイス発行事業者になるかどうかは、取引先の消費税の納付額に大きく影響を与えることになるため、取引先との関係に影響を及ぼしかねません。
また、取引先の要望により会社設立時からインボイス発行事業者になる場合には「消費税の納税義務」が発生することになり、税負担が増加します。
ただし、インボイス発行事業者になった場合には、消費税の負担を考慮して「2割特例」などの支援措置が用意されています。
会社設立後にインボイス発行事業者になるのかどうかは、取引先の状況や消費税の負担額を慎重に検討して決める必要があるでしょう。
インボイス発行事業者になった場合のメリット・デメリット
インボイス発行事業者になるかどうかを検討する場合には、しっかりとメリット・デメリットを理解しておきましょう。
2-1.インボイス発行事業者のメリット
2-1-1.取引先との契約の継続が見込める
行う事業がBtoB(企業間取引)である場合、インボイス発行事業者になることで取引先との契約の継続が見込めます。
インボイス発行事業者でない場合は、取引先の消費税額の負担が増加してしまうため、契約が打ち切られ、他のインボイス発行事業者へ変更されてしまうおそれがあります。
インボイス発行事業者なのかどうかは、取引先を選定する上でのポイントになってきていますので、インボイス発行事業者である場合には今後も契約の継続が見込まれるでしょう。
2-1-2.業務の効率化が行える
インボイス制度では、インボイスを電子データ化した電子インボイス(デジタルインボイス)が認められています。
紙ベースではなく、電子インボイスを作成、保存、管理が行えるようになるため、印刷コストの削減、請求書郵送業務の削減など、業務の効率化を図ることができるようになります。
また、紙ベースのインボイスの場合、その提供した日の属する課税期間の末日の翌日から2ヶ月を経過した日から7年間の保管が必要になり、保管場所や保管に必要なファイルやバインダーが必要になりますが、電子インボイスであれば保管場所も必要なく、簡単に検索をかけることが可能です。
ただし、電子インボイスの保管については「電子帳簿保存法」に則って行わなければなりません。
2-1-3.不正を防止することができる
インボイスには、取引の内容や適用税率、消費税額が区分の記載が必要です。
消費税率10%と8%が混在している取引では、適用税率がしっかりと確認することができるため、ミスが発生することも少なくなり、不正があった場合にも気付きやすくなり、不正が行われにくい状況にすることができます。
2-2.インボイス発行事業者のデメリット
2-2-1.消費税の負担が増える
会社設立後、一定の要件により2年間消費税の免税事業者になりますが、インボイス発行事業者になるためには消費税の課税事業者を選択しないといけないので、その場合は、当然ながら消費税を納めなければなりません。
免税事業者であれば、必要なかった消費税に納税が必要になるため、設立したばかりの会社にとっては大きな負担になるでしょう。
また、消費税の申告も必要になるため、消費税申告書の作成や納付を行う手間が発生します。
2-2-2.経理担当者の業務が増える
インボイス発行事業者になると適格請求書(インボイス)に対応する請求書の発行が必要になるため、対応システムの導入などが必要になります。
また、消費税の原則的な計算方法である「原則課税」である場合は、取引先のインボイス制度の登録番号を確認しながら経理処理を行わなければならないなど、免税事業者の場合と比べて経理担当者の業務が増加します。
2-2-3.免税事業者との取引では不利になる可能性がある
インボイス制度では、免税事業者は適格請求書を発行することができません。
そのため、取引先が免税事業者である場合には、仕入税額控除を受けることができず、消費税の負担が増加してしまう可能性があります。
インボイス制度では、取引先がインボイス発行事業者かどうかを確認することが重要です。
一方で、自社が免税事業者である場合には、自社の売上先が仕入税額控除を受けることができなくなります。
競合相手にインボイス発行事業者がいる場合には、競合相手の方が消費税上有利になるため、契約を継続してもらえない可能性が考えられます。
会社設立におけるインボイス制度の対応手順
会社設立におけるインボイス制度の対応は、会社の資本金が1,000万円未満か、それとも1,000万円以上かによって異なります。
資本金が1,000万円未満の場合には、原則的に2年間消費税が免税になります。
資本金が1,000万円以上の場合には、第1期目から消費税の課税事業者になります。それぞれの対応について見ていきましょう。
3-1.設立時の資本金が1,000万円未満の場合
設立時の資本金が1,000万円未満の場合は、基準期間(前々期)の課税売上高がないため2年間消費税の免税事業者になります。(特定期間の課税売上高が1,000万円超の場合は1年間)
ただし、インボイス発行事業者になりたい場合は「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出することで消費税の課税事業者になることができ、インボイス発行事業者として登録することができます。
免税事業者でいれば2年間消費税の負担がなくなりますが、取引先が仕入税額控除を行えないため取引上不利に働く可能性があります。
一方で、課税事業者を選択した場合にはインボイス発行事業者になれますが、消費税の負担が生じることになります。
インボイス発行事業者になるかどうかは、負担が増える消費税額や簡易課税制度を選択した方がいいかどうか、取引先との関係性・対応を考慮し、自社にとってどちらが有利になるのかを専門家に相談しながら進めていくといいでしょう。
3-2.設立時の資本金が1,000万円以上の場合
設立時の資本金が1,000万円以上の場合は、第1期目から消費税の課税事業者になります。
インボイスを発行するためには「適格請求書発行事業者の登録申請書」を税務署に提出する必要があり、設立初日からインボイスを発行するためには「課税期間の初日」を登録申請書に記載することになります。
会社設立時のインボイス制度への備え方
会社設立する際は、事前にインボイス制度への理解を深め、自社にとって有利な方法を選択することが重要です。
インボイス制度へ対応するためには、次のような備えを行うといいでしょう。
4-1.事前に消費税額を予測する
会社設立後、インボイス発行事業になった場合にどれくらいの消費税の負担があるのかを事前に予測しましょう。
消費税の納税額は1事業年度内の売上高と仕入高、経費の金額によりおおよその金額を計算することができます。
事業計画書をもとに消費税額を事前に予測しましょう。
4-2.2割特例を利用する
新設法人の資本金が1,000万円未満の場合で、インボイス発行事業者になるために消費税課税事業者なった場合には、時限措置として最長3年間(令和8年9月30日の属する課税期間まで)「2割特例」を利用することができます。
2割特例を利用すると、納付する消費税額が売上高にかかる消費税額の2割になり、仕入や経費にかかる消費税を把握する必要がないため、消費税額と事務負担を大幅に軽減することができます。
2割特例については、こちらで詳しく紹介しています。
4-3.簡易課税制度の検討を行う
消費税の計算には、売上にかかる消費税に業種によって決められている「みなし仕入率」を乗じて計算する「簡易課税制度」という計算方法があります。
2割特例と同様に仕入や経費にかかる消費税を把握する必要がなく、簡単に消費税額を算出することが可能であり、原則的な消費税の計算方法よりも消費税額が抑えられる場合が多くあります。
簡易課税制度を利用するためには「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要になりますので、原則的な方法と簡易課税制度を比較し、有利不利を把握しておきましょう。
なお、簡易課税制度と2割特例の両方を利用できる場合には、申告時に有利な計算方法を選ぶことができます。
インボイスの作成方法
インボイスは、決められたフォームがあるわけではありませんが、記載する事項は定められています。
<インボイスの記載事項>
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上記の記載事項が含まれていれば手書きのインボイスでも問題ありません。
しかし、記載事項が多いため、請求書作成ソフトやシステムなどの導入を検討するといいでしょう。
まとめ
インボイス制度の導入以降、自社がインボイス発行事業者かどうかは取引先の消費税にまで影響することになり、取引先の選定にも影響を与えるようになっています。
会社設立時からインボイス発行事業者になるのかどうかは、会社設立に強い税理士事務所に相談し、後悔しないように慎重に進めていきましょう。
Star Member (スタメン) 公認会計士・税理士事務所は、会社設立時のインボイス制度の検討についてのご相談も承っております。
会社設立のご相談については無料でご利用いただけますので、お気軽にご相談ください。