会社設立

更新日:2024.07.10

公開日:2024/7/5

マイクロ法人とは?メリット・デメリットや作り方について解説!

この記事の監修
山田俊輔

StarMember公認会計士・税理士事務所
代表 山田俊輔(公認会計士・税理士・経営心理士)

あずさ監査法人にて、東証一部上場企業の会計監査、上場準備会社の監査、会社買収時のデューデリジェンス業務等を担当。
2010年に独立開業し、Star Member (スタメン)公認会計士・税理士事務所と株式会社日本会計サービスを立ち上げ、連結売上1,000億円超の社外取締役や売上数百億円~数億円の会社の取締役、監査役などを務める。2017年には野村證券なんば支店アドバイザリーボードメンバーにも選任。

個人事業主が法人を設立する法人化(法人成り)は、事業規模の拡大に伴い検討しなければならない事項でしたが、近年では法人設立が資本金1円から、役員が1人いれば設立できる「合同会社」の台頭により、小規模な法人である「マイクロ法人」の設立が増加しています。

小規模ながら事業が安定してきた個人事業主の場合、個人事業主として続けていくよりも、規模はそのままでマイクロ法人として法人化することで、税金や社会保険料の負担を軽減できる可能性があるため「個人事業主⇒マイクロ法人設立」の流れに注目が集まっています。

しかし、誰もがマイクロ法人にするとメリットを得られるわけではなく、中には個人事業主のまま続けていたほうが良かったケースも考えられます。

ここでは「マイクロ法人の概要とメリット・デメリット、マイクロ法人の作り方」について詳しく解説します。

個人事業主から法人設立を考えられている方は、ぜひ最後までお付き合いください。

マイクロ法人とは

マイクロ法人とは「マイクロ=非常に小さい」会社のことを指します。

法律上、マイクロ法人という会社の形態はなく、合同会社または株式会社のどちらかで設立されることが多く、「従業員を雇わずに経営者1人で仕事を行う会社」のことをマイクロ法人と言います。

 

一般的な会社は、利益を追求し、その利益をもとに事業拡大を行っていきますが、マイクロ法人では、利益は追求するものの事業拡大を大きな目的としておらず、経営者1人でできる仕事の範囲で事業を行うことが特徴です。

「マイクロ法人は個人事業主を法人化したもの」とイメージするとわかりやすく、マイクロ法人にしても、働き方は個人事業主の頃と大して変わりはありません。

1-1.個人事業主との違い

マイクロ法人と個人事業主の働き方は大して変わりませんが、マイクロ法人には「法人格」があることが大きな違いです。

法人格があることで、税金・社会保険料・経費の範囲が個人事業主とでは異なります。

 

  個人事業主 マイクロ法人
税金
  • 所得税(最大税率45%の超過累進課税)
  • 住民税
  • 事業税(事業所得290万円超の場合)
  • 法人税(年800万円以下の部分は15%、年800万円超の部分は23.2%)
  • 法人住民税
  • 法人事業税
社会保険料
  • 国民年金
  • 国民健康保険
  • 厚生年金
  • 協会けんぽ(健康保険)
経費の範囲 狭い 広い

1-1-1.税金の違い

個人事業主の税金である所得税は超過累進課税になっており、利益(所得)が多ければ多いほど負担割合が上がります。

 

一方、マイクロ法人の法人税は、利益(所得)が800万円までは15%、年800万円超の部分は23.2%の定額になっており、利益(所得)が多ければ、個人事業主よりもマイクロ法人の方が有利になるでしょう。

マイクロ法人には、赤字でも納付しなければならない「法人住民税の均等割(7万円ほど)」を納付する必要がありますが、経営者に支払う役員報酬を経費にすることができ、経営者の所得税の計算では給与所得控除が適用されるため税金面では、マイクロ法人が有利になるケースが多いでしょう。

1-1-2.社会保険料の違い

個人事業主の場合、国民年金と国民健康保険への加入となり、国民年金は定額ですが、国民健康保険は前年度の世帯所得と世帯人数によって決定します。

一方、マイクロ法人は厚生年金と協会けんぽ(健康保険)への加入になり、役員報酬の標準報酬等級に応じ、社会保険料は報酬額の約30%(法人と経営者が折半した負担合計)になります。

 

年金だけを考えると、国民年金よりも厚生年金のほうが負担が重くなりますが、将来もらえる年金額が増えることになるため、単準に比較することはできません。

健康保険については、比較することが難しいですが、給付面においては協会けんぽの方が優れています。

1-1-3.経費の範囲

個人事業主でもマイクロ法人でも、事業にかかった費用は経費にすることができます。

しかし、個人事業主よりもマイクロ法人のほうが経費にできる項目が多くなります。

代表的なもので言えば、社宅、出張手当、車両関連費、生命保険、退職金などを経費にすることができるようなりますので、税金面のことを考えるとマイクロ法人のほうが有利と言えるでしょう。

1-2.マイクロ法人はどんな人に向いている?

マイクロ法人に向いている人は「利益がでている個人事業主やフリーランス」の方です。後ほどお伝えしますが、個人事業主からマイクロ法人にする大きなメリットは税金の節税と社会保険料の削減です。

利益が出ている個人事業主やフリーランスの方は節税・削減できる可能性があるため、一度検討してみることをおすすめします。

 

1人で会社運営を行うマイクロ法人であることを考えると、パソコンだけで業務を行えるエンジニアやコンサルタント、プログラマー、YouTuberなどの業種と相性がいいでしょう。

大きな設備投資がなく、事務所の規模が小さくても問題ない事業は、特にマイクロ法人に向いている事業だと言えます。

マイクロ法人のメリット

マイクロ法人のメリットは次の4つです。

「個人事業主との違い」で解説した部分と重なりますが、メリットに着目してみていきましょう。

2-1.税金を節税できる

所得税は法人税率が最大で45%の超累進課税であるのに対し、マイクロ法人の法人税は最大23.2%です。

法人税のほうが最高税率が低いため、利益(所得)が高額になっても税金を少なく抑えることができます。

 

また、マイクロ法人は経営者に役員報酬を支給することができ、経費(損金)にすることができます。

経営者の役員報酬には、給与所得控除という一定の控除を受けることができるため、総合的に税金の負担を少なくすることが可能です。

2-2.社会保険料の負担軽減

個人事業主が負担する健康保険料は前年の世帯所得で決まり、令和6年の国民健康保険料の上限は年間106万円になっています。

個人事業で事業を拡大したため国民健康保険料の支払が増加し負担を感じている方も少なくないのではないでしょうか。

 

マイクロ法人では、経営者は役員として会社で社会保険(厚生年金・協会けんぽ)に加入することになります。

社会保険は経営者の役員報酬の金額に応じて負担が増加する仕組みになっており、その負担を経営者本人と会社で折半することになります。

つまり、社会保険料の負担が少なくてすむように役員報酬を調整することで、社会保険料の負担を減らすことが可能です。

 

ただし、社会保険料を減らすと厚生年金も減ってしまい、将来もらえる年金額が少なくなり、また、役員報酬を減らしすぎると経営者の生活が厳しくなってしまいます。

役員報酬を減らしても、社宅規定や出張旅費規定などを整備することでクリアできる部分もありますので、よく検討してみましょう。

2-3.経費の範囲が大きい

マイクロ法人は、社宅、出張手当、車両関連費、生命保険、退職金など、個人事業主では経費にできないものも事業経費にすることが可能です。

2-4.消費税の免税事業者になれる可能性がある

個人事業主で事業を行っている際に、課税売上高が1,000万円を超えており、消費税の課税事業者になっている場合、マイクロ法人にすることで消費税の免税事業者になることができます。

 

マイクロ法人の設立後は、消費税の判断基準となる「基準期間」がないため、資本金1,000万円未満であれば、少なくとも1期目は消費税免税になります。

2期目が免税になるためには「特定期間の課税売上高が1,000万円以下」「特定期間の給与支払額の合計額が1,000万円以下」「設立1期目が7か月以下」のいずれかの要件を満たす必要があります。

マイクロ法人のデメリット

マイクロ法人には、メリットだけではなく、デメリットもあります。

3-1.設立・運営コストがかかる

マイクロ法人を設立するためには、通常の法人設立登記が必要になります。

会社の形態を合同会社にすれば約10万円、株式会社であれば20万円以上の設立費用が発生します。

設立後についても、株式会社であれば役員の重任登記などが必要になり、コストが発生する可能性があります。

3-2.税務申告などの事務手続きが煩雑になる

個人事業主の場合は、所得税の確定申告により申告を行いますが、マイクロ法人は法人税の確定申告書が必要になります。

法人税の確定申告では、経理処理・決算処理の複雑さ、法人税申告書作成の難解さから、税理士との顧問契約が必要になるでしょう。

 

また、役員が社会保険に加入すると、社会保険の事務手続きも発生することになり、個人事業主と比べると、多くの事務手続きが必要になります。

3-3.赤字でも住民税が発生する

法人を設立すると、事業が赤字でも納付しなければならない「法人住民税の均等割」が発生します。

都道府県、市区町村によって金額に若干の差がありますが、年間約7万円の負担になります。

マイクロ法人の作り方

マイクロ法人は、次のような手順で作成します。

マイクロ法人は会社法上の名称ではないため、合同会社または株式会社の会社形態で設立することになり、設立方法もこれらの会社形態に準ずることになります。

①会社の基本事項を決定
②定款の作成・認証
③資本金の払い込み
④設立登記の申請

合同会社、株式会社の具体的な作り方についてはこちらをご覧ください。

マイクロ法人設立にかかる費用

マイクロ法人設立にかかる費用についても、どの会社形態で設立するのかで異なります。

合同会社と株式会社にかかる設立費用は次のとおりです。

<合同会社と株式会社の設立費用>

  合同会社 株式会社
定款印紙代 40,000 40,000
定款認証手数料 必要なし 30,000円~50,000
登録免許税 60,000円~

(資本金により異なる)

150,000円~

(資本金により異なる)

定款の謄本 2,000 2,000
合計額 102,000円~ 222,000円~

※電子定款を利用すれば「定款印紙代不要」

 

マイクロ法人を設立する場合の注意点

6-1事業の運営によっては違法と判断されるケースがある

個人事業を行っている人が、個人事業を継続しながら、同じ業種を営むマイクロ法人を設立すると違法と判断されるケースがあります。

個人事業とマイクロ法人が同じ事業である場合、マイクロ法人の存在意義がなくなり、個人事業と法人の事業の境目が曖昧になってしまい「マイクロ法人は実態のない節税するために作った法人」と判断されかねません。

これは、所得税法第12条「実質所得者課税の原則」に抵触することになり「違法」と判断されます。

 

マイクロ法人を設立し、その結果、社会保険料や税金が節約になることは違法ではありませんが、個人事業と法人の事業を同時に行う場合は、同じ事業を行わず、お金の流れもしっかり区別し、全く別物として取り扱うことが重要です。

区別が曖昧だと、税務上の問題や脱税を疑われてしまうおそれがあります。

6-2.サラリーマンがマイクロ法人を設立するメリットは小さい

大手企業が副業解禁を相次いで行ったことで、副業を行うサラリーマンが増加しています。

中には、副業収入が増えてきたため、マイクロ法人の設立を考えている方もいますが、サラリーマンがマイクロ法人を設立するメリットは小さいので、十分な検討が必要です。

 

サラリーマンであれば、雇用されている会社で社会保険に加入しているため、マイクロ法人を設立しても、社会保険料の削減についてのメリットを受けることができません。

また、同時に2か所以上の事業所で勤務する場合には、日本年金機構へ届出が必要になり、それぞれの事業所で受ける報酬月額に基づき按分して保険料が決定します。

そのため、社会保険料が増加する可能性も考えられます。

まとめ

継続的に利益がでている個人事業主の場合、マイクロ法人を設立することで、総合的な税金の節税、社会保険料の節税など、個人事業主よりも負担を軽くすることができる可能性があります。

ただし、マイクロ法人には、赤字でも納めなければならない法人住民税など、個人事業主にはない負担があるため、どちらのほうがいいのかをよく検討して進める必要があります。

 

Star Member (スタメン) 公認会計士・税理士事務所は、会社設立をして事業を行いたい方の応援団です。

マイクロ法人を設立したほうがいいのか、それとも個人事業主のほうがいいのかのシミュレーションについてもご相談していただけます。

会社設立に関するご相談を無料にて承っておりますので会社設立でお悩みの際は、お気軽にご相談ください。

 

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