公開日:2024/9/19
就任承諾書は必要?取締役の就任承諾書の書き方や使用する印鑑について解説
StarMember公認会計士・税理士事務所
代表 山田俊輔(公認会計士・税理士・経営心理士)
あずさ監査法人にて、東証一部上場企業の会計監査、上場準備会社の監査、会社買収時のデューデリジェンス業務等を担当。
2010年に独立開業し、Star Member (スタメン)公認会計士・税理士事務所と株式会社日本会計サービスを立ち上げ、連結売上1,000億円超の社外取締役や売上数百億円~数億円の会社の取締役、監査役などを務める。2017年には野村證券なんば支店アドバイザリーボードメンバーにも選任。
会社を設立する際には、設立登記申請書などの一定の書類を作成し、法務局へ提出が必要になります。
書類の中でも「役員」に関する書類が「就任承諾書」であり、会社設立時または役員の変更時に作成が必要です。
ここでは「就任承諾書」について、作成方法や使用する印鑑を含めて解説します。
就任承諾書は、会社設立する際に多くのケースで作成が必要になる書類ですので、会社設立を検討されている方は、ぜひ最後までお付き合いください。
就任承諾書は「就任を承諾したこと」を証明する書類
就任承諾書は、「役員として選任(選定)された人が、就任を承諾したことを証明する書類」のことです。
会社法では、株主総会で役員に選任された人が役員になるのではなく、選任された後に選任された人が「わかりました。お引き受けしましょう」という意思表示を行うことで役員になることができます。
会社と選任された人の双方の間で「委任契約」が成立した証として作成する書類、それが「就任承諾書」です。
(株式会社と役員等との関係)
会社法 第330条 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。※委任契約は「使用者に従属していない」という特徴があり、会社と雇用関係があるわけではないため、会社から業務上の指揮命令を受けることはありません。
就任承諾書が必要なタイミングは「会社設立時や役員の変更時と就任時」
就任承諾書の作成が必要になる場面は、主に次の2つのタイミングです。
2-1.会社設立時のタイミング
役員の氏名は会社の登記事項になっているため、会社を設立する際には株主総会の決議を経て、役員に選任された人が役員に就任したことを証明する書類として就任承諾書の作成が必要になります。
2-2.役員の変更時と就任時
会社設立後、今までの役員を変更する時や新たに役員が就任する場合には、就任承諾書の作成が必要になります。
役員の変更を行う場合には、前の役員が辞任していることを証明する「辞任届(死亡による辞任の場合は死亡届)」の提出も必要です。
就任承諾書の提出を省略できる場合もある
会社設立時や役員変更時に必要な就任承諾書ですが、ケースによっては作成を省略できる場合があります。
どんな時に省略することができるのか見ていきましょう。
3-1. 就任の承諾を株主総会議事録に記載した場合
株主総会の議事録や決議書に「役員候補者が就任を承諾した旨」を記載し、その書類を提出(援用)することで就任承諾書の作成を省略することができます。
省略する場合には、登記申請書に「就任承諾書は、設立時取締役選任決議書の記載を援用する。」と記載する必要があります。
また、株主総会議事録を援用する場合には、就任を承諾した役員の住所の記載が必要であり、住民票記載事項証明書、印鑑証明書等の本人確認証明書の添付が必要になります。
ただし、役員の「再任」の場合は、既に本人確認が行われており、改めて確認する必要がないため、議事録への住所の記載は必要ありません。
3-2.定款で設立時取締役などを定めた場合
会社設立時に、定款に役員の就任に関して具体的に定め、かつ、定められた人が発起人として定款に押印している場合(電子定款の場合は、定款の作成者として定款に電子署名を行っている場合)には、定款が就任承諾書の役割を果たすため、別途就任承諾書の作成は必要ありません。
3-3.合同会社で要件を満たす場合
合同会社を設立する場合には「代表社員の就任承諾書」が必要になります。
ただし、定款で設立時の代表社員に定められており、社員として定款の末尾に実印にて記名押印している場合には、代表社員の就任承諾書は必要ありません。
取締役の就任承諾書の書き方
就任承諾書には決まった様式はなく、自分で作成することが可能です。
ただし、会社法で必ず記載しなければならない事項が定められています。
4-1.就任承諾書の記載例
就任承諾書
私は、令和○年○月○日※①、貴社の設立時取締役※②に選任されたので、その就任を承諾します。※③ 令和○年○月○日 ○○商事株式会社 御中※⑦ |
4-2.選任された日付(※①)
選任された日付は「取締役に選任された日」を記載します。定款によって選任された場合には、定款の認証日ではなく、定款が作成された日を記載します。設立時取締役選任決議書において選任された場合には、決議が行われた日を記載します。
株主総会により選任された場合には、株主総会の開催日を記載し、次の文言にするといいでしょう。
【株主総会による選任】
就任承諾書
私は、令和○年○月○日開催の貴社株主総会において、貴社の取締役に選任されたので、その就任を承諾します。 |
4-3.選任された役職名(※②)
選任された役職名を記載します。「代表取締役」「監査役」「代表社員」など、選任された役職名を記載しましょう。
4-4.役職に就任することを承諾する旨(※③)
役員への就任を承諾したことの意思表示として記載します。
就任への意思表示を行うことで、会社と役員との委任契約が成立することになります。
4-5.選任された役員の住所※④
選任された役員の住所を個人の印鑑証明書のとおりに記載します。
日常的に使用する省略された住所ではなく、正しい住所でなければ認められませんので注意が必要です。
例えば、「大阪府大阪市中央区安土町2丁目5番5号」を「大阪府大阪市中央区安土町2-5-5」と記載してしまうと認められません。
住所は本人確認するうえで重要な要素になりますので、必ず印鑑証明書のとおりに記載しましょう。
4-6.選任された役員の氏名(※⑤)
住所と同様に、印鑑証明書に記載してあるとおりに役員の氏名を記載しましょう。
使用する印鑑については、基本的には役員個人の印鑑登録がしてある実印で押印します。
ただし、次の項目で詳しく解説しますが、印鑑の種類や印鑑証明の提出の必要性は会社の状況によって異なります。
4-7.会社名(※⑥)
会社名を省略せずに記載します。定款に記載されている商号をそのまま記載し、㈱や㈲、(同)などの省略を行わずに記載します。
4-8.捨印は必要?
捨印は必ず必要ではありませんが、就任承諾書に誤りや不備があった場合に対応できるように就任承諾書の上部に捨印を押しておくと安心です。
就任承諾書に使用する印鑑は実印が必要な場合と認印でも問題ない場合がある
就任承諾書の役員の氏名の横に押印する印鑑と印鑑証明書の提出の要否については「取締役会設置会社かどうか」によって異なり、ケースによっては実印ではなく認印が認められる場合もあります。
取締役会設置会社 | 取締役会を設置していない会社 | |
取締役の就任承諾書 | 認印でも可(印鑑証明不要) | 実印(印鑑証明が必要) |
代表取締役の就任承諾書 | 実印(印鑑証明が必要) | 認印でも可(印鑑証明不要) |
代表取締役の就任承諾を株主総会議事録で援用する場合 | 実印(印鑑証明が必要) | 実印(印鑑証明が必要) |
- 取締役会設置の場合の注意点
取締役の就任承諾書は認印でも構いませんが、代表取締役も兼ねる場合には実印と印鑑証明の提出が必要です。
- 取締役会を設置していない会社の注意点
取締役の再任の場合は認印でも構いません。
【取締役会設置会社とは】 取締役会を設置するかどうかは自由に決められることになっており、取締役が3名以上、監査役1名以上いる場合に取締役会を設置することができます。取締役会を設置することで、株主総会の権限の一部を取締役会が担うことになり、経営に関する意思決定の迅速化、各取締役の職務執行の監督ができるようになります。 |
5-1.就任承諾書の印鑑にはシャチハタは使えない
基本的に公的な書類にはシャチハタは利用できません。
シャチハタは大量生産品であり、同じ印面が出回っているため悪用されるおそれがあるからです。
また、シャチハタはゴム材で作られるため、劣化などにより印影が変化してしまうためだと言われています。
就任承諾書の印鑑についても、認印が認められる場合であってもシャチハタは認められません。
5-2.実印を利用した場合に必要な印鑑証明
取締役会を設置していない会社の取締役の就任承諾書や取締役会設置会社の代表取締役の就任承諾書には実印による押印が必要になり、市区町村長の発行した印鑑証明の提出も必要です。
この印鑑証明については、有効期限の定めはありません。
ただし、会社を設立する際に発起人が公証人へ提出する印鑑証明には提出日から3か月以内に発行されたものしか認められていませんので、就任承諾書に添付する印鑑証明についても発行日から3か月以内の印鑑証明を提出したほうがいいでしょう。
就任承諾書に添付する印鑑証明は、書類を返してもらえる「原本還付」が認められています。原本還付を行うためには、原本の写しを別に用意し、「これは原本の写しである」と記載します。
その次の行に会社名・証明者の資格氏名を記載し押印することで原本還付を受けることができます。
就任承諾書の作成に関する注意点
6-1.自署である必要はない
会社法上、就任承諾書が自署である必要はありません。パソコンで作成した就任承諾書を利用しても、問題なく登記申請を行えます。ただし、パソコンで作成した就任承諾書は誰でも作成することができるため、裁判などになった場合の証明力に不安が残ります。
法律上、自署は要求されていませんが、自分の名前はパソコンによる印刷ではなく、自署しておくことをお勧めします。
6-2.取締役設置会社かどうかで実印・印鑑証明の要否が異なる
先ほども解説したとおり、就任承諾書に押印する印鑑と印鑑証明書の提出の要否は取締役設置会社かどうかで異なります。
取締役会設置会社であるかどうかは、会社の登記簿謄本の「取締役会設置会社に関する事項」の欄に「取締役会設置会社」と記載されているかどうかで確認することができますので、事前に確認しておきましょう。
6-3.選任日と就任日が異なる場合には注意が必要
役員の就任は、会社が選任し、選任された人が承諾することで成立します。そのため、通常は選任日と就任日が異なってしまいます。
例えば、選任日が令和6年3月31日、就任承諾日が令和6年4月10日である場合、登記簿には遅い日付である「令和6年4月10日就任」となりますが、役員の任期のスタートは選任日である「令和6年3月31日」になります。
基本的には問題ありませんが、定款の役員の任期に「取締役及び監査役の任期は、その選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。」のようになっている場合で、その会社の決算日が3月31日である場合には注意が必要です。
役員選任日が令和6年3月31日である場合の役員の任期は令和8年5月中旬になりますが、登記簿上の就任日である令和6年4月10日の場合の任期は令和9年5月中旬になります。選任日が少し違うだけで任期が1年も変わってしまうこともあるため注意が必要です。
まとめ
役員の就任は会社から選任を受け、承諾することで成立する委任手続きです。
この委任手続きを成立させるためには、就任承諾書の作成が重要です。
Star Member (スタメン) 公認会計士・税理士事務所は、皆様の会社設立を応援しています。
就任承諾書を含め、設立に関するお手続きを他の専門家と連携してワンステップでサポートしておりますので、関西で会社設立を検討されている場合は、お気軽にご相談ください。