公開日:2025/1/6
PMIとは?M&Aを成功させるPMIについて解説!
StarMember公認会計士・税理士事務所
代表 山田俊輔(公認会計士・税理士・経営心理士)
あずさ監査法人にて、東証一部上場企業の会計監査、上場準備会社の監査、会社買収時のデューデリジェンス業務等を担当。
2010年に独立開業し、Star Member (スタメン)公認会計士・税理士事務所と株式会社日本会計サービスを立ち上げ、連結売上1,000億円超の社外取締役や売上数百億円~数億円の会社の取締役、監査役などを務める。2017年には野村證券なんば支店アドバイザリーボードメンバーにも選任。
2つ以上の企業が合併・買収を行うM&Aには、譲受(買収)企業・譲渡(売却)企業それぞれ目的があります。
譲受企業には新規事業の早期拡大、シナジー効果を得るためなどの目的があり、譲渡企業は事業承継や事業再生などの目的を持って行われますが、M&A成立後の統合プロセスをしっかりと行わなければ、目的を達成することができません。
場合によっては、従業員の流失に繋がってしまうおそれもあります。
ここでは「M&A成立後に重要な統合プロセスPMI(Post-Merger Integration)」について詳しく解説します。
PMIは、M&Aを検討させている方にとって必要不可欠なプロセスですので、ぜひ最後までお付き合いください。
PMIとは?
M&Aは、実施したからといって事業拡大やシナジー効果が生じるわけではありません。
譲受企業と譲渡企業の経営体制や業務プロセス、ITシステム、従業員、企業文化など、様々な要素の統合を図り、M&Aによるリスクの最小化・M&Aによる効果の最大化を目的として行われる取り組みを「PMI」と言います。
M&Aは近年増加傾向にありますが、結果的に失敗してしまうケースも少なくありません。
その失敗の1つの要因に「PMIを上手くできなかった」ということがあげられます。「M&Aの成立」と「M&Aの成功」は全く違う意味であり、M&Aはあくまでも手段であり、成功させるためには統合プロセスであるPMIをしっかりと行い、譲受企業と譲渡企業が1つの企業グループになることが、M&Aを成功させるうえで必要不可欠と言っても過言ではありません。
PMIを行う目的
PMIは「M&Aを行う前までは別の組織だった企業を1つにまとめること」を目的にしています。
PMIに取り組むことで、M&Aで発生しやすい次のようなリスクを回避することが可能になります。
【PMIで回避できるM&Aのリスク】
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M&Aのリスクの中でも、特に気をつけなければならないことが「従業員の離職」です。
高い技術やノウハウ、リーダーシップを持つ従業員は事業運営で非常に重要な役割を果たします。
特に、中小企業などの比較的規模の小さいM&Aでは人的資源が重要になります。
2-1.PMIの実施項目
M&Aのリスクを回避するために行う具体的なPMIには、次のようなものがあります。
【PMIの実施項目】
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2-1-1.経営理念、企業文化の統合
M&Aでは、経営理念や企業文化の統合が重要です。
基本的には譲受企業の経営理念や企業文化に合わせる形で統合を進めますが、譲渡企業にも優れた経営理念・企業文化があるため、一方的ではない統合が必要になります。
2-1-2.経営体制、組織制度の統合
1つの企業グループとして譲受企業の経営陣がリーダーシップを持って、経営体制、組織制度の統合を進める必要があります。
会議体の整理を行い、業務の管理方法や各事業部の動き、責任者の設定などを把握し統合を進めていきます。
2-1-3.業務システムの統合
適切な業務システムに統合するため決裁権の見直しなどを行う必要があります。
まずは現状の業務システムを把握し「業務の俗人化・ブラックボックス化」を回避しながら統合を進めていきましょう。
また、経理や財務の分野では、財務データの統合と管理体制を確保することが重要です。
会計基準が異なっていないか現状を把握し、決算体制の統合などを図る必要があります。
2-1-4.ITインフラなどの社内システムの統合
譲受企業と譲渡企業では利用しているITインフラが異なります。
ITインフラは企業活動の根幹を支える部分でもあるため、共通化して統一的な管理体制にすることが重要です。
2-1-5.既存の業績評価基準の見直し
M&A後は、シナジー効果も考慮した明確な目標を設定し、その目標を達成できるKPI(重要業績評価指標)を設定することが必要です。
既存の業績評価基準を一から見直し、M&Aの目標達成度を正確に把握するためにも、明確な業績評価基準を設定しましょう。
PMIはどのように行うのか?
統合プロセスであるPMIは、M&A後の経営そのものであり、決まったルールはなく企業それぞれが工夫して行わなければならず、M&A成立までのプロセスよりもPMIプロセスの方が難しいと言われます。
PMIにルールはありませんが、実際のPMIの現場では、次のような手順により統合プロセスを進めていきます。
①M&A成立する前の準備
②現状の把握 ③専門家を活用したPMI計画の策定・実行 ④細かな事業計画の策定・実行 ⑤成果の測定 |
3-1.①M&A成立する前の準備
PMIの開始のタイミングはM&A成立後になりますが、成立する前の段階から計画の立案などの準備を行うことで、M&A成立後スムーズに統合を進めていくことができます。
特に経営理念、企業文化の統合には長い期間が必要になる場合も多いため、M&Aが成立する前の段階から対策を考えておきましょう。
また、PMIの枠組みを事前に考えておくことも大切です。「PMI推進チームの候補」「従業員離職のリスクの見極め」「経営体制、組織制度の統合」はM&A後すぐに課題となる項目になりますので、あらかじめ準備しておきましょう。
3-2.②現状の把握
M&A成立後は、成立前にコンタクトを取ることができなかった譲渡企業の役員や事業部の責任者などと接触し、譲渡企業の状況を正確に把握します。
譲渡企業における事業の構造や役割分担などを正確に把握し、譲渡企業のビジネスの本質を見極めることで、今後のPMIプロセスをスムーズに進めていくことができます。
また、現状の把握と同時に譲渡企業の従業員とコミュニケーションを図り、M&Aによる不安、企業に期待していることなどをリスニングし、コミュニケーションを通じて信頼関係を深めていくことも重要です。
3-3.③専門家を活用したPMI計画の策定・実行
PMIを成功させるためには、重要な統合プランをスムーズに策定することが最重要課題です。
特にM&A成立から初めの四半期で成果を出すことができれば、従業員や株主に与える企業の信頼度が高まります。
そのため、経営体制・組織制度の統合、業務システムの統合、業績評価基準の見直し、取引先への挨拶など、優先度の高い項目をPMI計画として策定、100日を目安に実行していく「100日プラン」が重要になります。
PMI策定は段階的にわかりやすく整理したうえで、プロセスの担当者を設定して進めていく必要があり、実行までにかなりの労力が必要になる作業です。
PMI策定を行う際には、公認会計士や経営コンサルティング会社などの専門家と進めていくことをお勧めします。
3-4.④細かなPMI計画の策定・実行
100日プランで策定・実行した優先度の高い項目以外の細かい項目についての策定・実行を行います。
策定するPMI計画は事業部やプロジェクトごとに異なりますが、長期間に渡って統合プロセスを続けていくものもあり、担当者は根気強くモチベーションを維持していく必要があります。
3-5.⑤成果の測定
PMI計画の実行後、定期的に進捗状況を確認し、計画通りに進んでいるか、問題が発生している部分はないかを確認する必要があります。
PMI計画では、思いも寄らないトラブルが発生することも多いため、必要であれば柔軟に軌道修正を行えるようにしておきましょう。
また、目標に設定したKPI(重要業績評価指標)の達成度などの指標を使い、PMI戦略が成功しているかどうかの成果の測定を行い、課題と改善点を洗い出し、持続的にPMI戦略を続けていくことが重要です。
PMIを成功させるためのポイント
PMIを成功させるためには次のポイントを押さえ、常に意識して進めていくことが大切です。
4-1.M&Aの目的を明確にする
「何を目的としてM&Aを行うのか」を明確にすることで、その目的に向けてPMI計画を立案することが可能です。
目的が曖昧なまま計画の立案を行うと、統合プロセスの中で方向性が定まらず、現場が混乱してしまうおそれがあります。
目的を定めることで、1つの企業として足並みを揃えることができるため、常に目的を意識し、共有するようにしましょう。
4-2.徹底したデューデリジェンス
デューデリジェンスとは、M&Aの基本合意書の締結後に実施される手続きであり、譲渡企業の調査・分析を行うプロセスです。
デューデリジェンスでは、財務状況、法的問題、業務運営など、多岐にわたる分析を行うことになります。
そのため、高度な専門的知識が必要になり、公認会計士など専門家と力を合わせて手続きを行う必要があります。
デューデリジェンスの段階で徹底的に調査を行い、M&A後に懸念材料になりそうな項目を事前に把握し、対策を考えることでPMIの成功に繋がります。
4-3.人材選びを慎重に行う
PMIを成功させるためには、誰がPMIを率先して進めていくのかを決めることが重要です。
統合プロセスは企業の経営そのものであり、PMIを進めていくには経営能力に長けている人でなければなりません。
多くのケースでは、PMIを進めることに適している人は「譲渡企業の経営者」です。
譲渡企業の経営者が子会社の社長として、PMIを推し進めてくケースもよくあります。
他にPMIの担当者を決める場合は、譲受企業と譲渡企業のどちらの立場にも理解があり、バランス感覚のよく、行動力がある人が理想的です。
PMIでは人材選びが成功か失敗かを左右することになりますので、慎重に行いましょう。
4-4.信頼関係の構築を最優先に考える
PMIでは、統合プロセスを進めていくことだけが注目を浴びてしまいがちですが、プロセスだけではなく、譲受企業と譲渡企業の信頼関係を構築することが非常に重要です。
譲受企業と譲渡企業の従業員間で上下関係が発生したり、予算に差が生じたりすると対立してしまうおそれがあるため、両社の垣根をなくして対等な立場で向き合い、良い信頼関係を構築できるようにしましょう。
4-5.スケジュールに余裕を持たせる
PMIはM&A後の成果が求められるため、ギリギリのスケジュールで計画を策定するケースもありますが、スケジュールに無理があると統合プロセス自体の効率が低下し、PMIを成功させることが難しくなってしまうこともあります。
焦る気持ちをグッと抑え、達成可能なスケジュールを組むことで、関係者全員が信頼関係を築きながら、納得した形でPMIを進めていくことができるようになります。
PMIはどこに相談すべき?
PMIは、当事者である譲受企業と譲渡企業のみで進めることも可能です。
しかし、M&Aを初めて経験する担当者が手探りで進めることになるため、十分なシナジー効果を得ることが難しく、統合プロセスが不十分なままになってしまうこともあります。
一般的には、PMIには専門家の協力が必要です。M&A成立前に行うデューデリジェンスも含め、高度な知識が必要になるため、公認会計士や弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
統合プロセスPMIはM&Aの成功を左右する重要なプロセスです。
M&Aは高額な投資であり、十分な結果が求められます。M&Aを検討されている場合は、PMIプロセスを含め、専門家に相談しましょう。
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