公開日:2025/2/10
デューデリジェンスとは?M&Aの成功を左右するデューデリジェンスについて解説!


StarMember公認会計士・税理士事務所
代表 山田俊輔(公認会計士・税理士・経営心理士)
あずさ監査法人にて、東証一部上場企業の会計監査、上場準備会社の監査、会社買収時のデューデリジェンス業務等を担当。
2010年に独立開業し、Star Member (スタメン)公認会計士・税理士事務所と株式会社日本会計サービスを立ち上げ、連結売上1,000億円超の社外取締役や売上数百億円~数億円の会社の取締役、監査役などを務める。2017年には野村證券なんば支店アドバイザリーボードメンバーにも選任。
企業の合併や買収など、M&Aを行ううえで重要なことが「企業価値」の算定です。
買い手企業にとって、M&Aの対象になる企業(売り手企業)に買収する価値があるのか、買収するならいくらぐらいが適正なのかをしっかりと調査する必要があります。
この調査に必要不可欠なのが「デューデリジェンス」です。
デューデリジェンスとは「買収監査」という意味であり、主にビジネスデューデリジェンス・財務デューデリジェンス・法務デューデリジェンスを中心に行い、対象企業を総合的に調査することを目的としています。
ここでは「M&Aの成功を左右するデューデリジェンス」について詳しく解説します。適正なデューデリジェンスを行うことがM&Aを成功させる基本です。
M&Aを検討されている方は、ぜひ最後までお付き合いください。
デューデリジェンスがM&Aに果たす役割
M&Aにおけるデューデリジェンスの役割は「対象企業の現状を把握し、最適なM&Aを選択できるようにする」ことです。
具体的には次のような役割があります。
1-1.潜在リスクと企業価値の確認
財務や税務、法務デューデリジェンスを行うことで「簿外債務や偶発債務がないかどうか」「不正会計や粉飾決算の可能性がないかどうか」「正常な収益力であるか」「課税逃れなどを行っていないかどうか」など、売り手企業のリスクの洗い出しを行い、適正な企業価値を総合的に確認することが可能になります。
特に気を付けなければならない項目は、貸借対照表に計上されていない「簿外債務」です。
簿外債務の発生は珍しいことではなく、税務会計により会計処理をしている中小企業などでは、退職給付引当金や賞与引当金といった税務上の経費として認められない項目が簿外債務になっている場合がほとんどです。
簿外債務があるから悪いというのではなく、デューデリジェンスにより簿外債務の金額を適正に把握し、企業価値に反映させることが重要になります。
1-2.M&A実行後の自社への影響の確認
デューデリジェンスでは、潜在リスクと企業価値の確認を行うだけでなく「M&A実行後の自社への影響」についても把握する必要があります。
M&Aの大きな目的の1つは「シナジー効果」です。
合併や買収を行うことで、単体企業で事業を行うよりも大きな効果を得ることを意味し、シナジー効果の予測がM&Aの金額に大きな影響を与えることもあります。
デューデリジェンスにより、対象企業の特徴や技術、ノウハウを把握し、買い手企業とのシナジーがどのように発揮するのかを予測することが可能です。
予測したシナジー効果とその根拠はM&Aを実行するにあたり、株主等のステークホルダーに説明する責任があります。
1-3.説明責任を果たすため
デューデリジェンスの役割の1つに、株主等のステークホルダーへの「説明責任を果たす」ことがあげられます。
先ほどのシナジー効果の予測をはじめ、財務状況などのリスクがないこと、M&Aを実行することのメリットなど、デューデリジェンスを行うことでステークホルダーへの説明責任を果たすことができます。
8種類のデューデリジェンスと内容
デューデリジェンスには、財務や税務、法務を含め8種類あると言われています。
各デューデリジェンスの特徴とポイントについて見ていきましょう。
デューデリジェンスの種類 | 内容 |
ビジネスデューデリジェンス(ビジネスDD) | 買収先の将来性やシナジー効果の分析など |
財務デューデリジェンス(財務DD) | 財務リスクの抽出や事業計画の策定など |
税務デューデリジェンス(税務DD) | 税務リスクやスキームに関する調査 |
法務デューデリジェンス(法務DD) | 契約内容や取引の法令違反や訴訟の有無を調査 |
労務デューデリジェンス(労務DD) | 労務リスクの洗い出しや対策の検討 |
ITデューデリジェンス(ITDD) | ITシステムにおける潜在リスクの調査 |
セルサイドデューデリジェンス(セルサイドDD) | 売り手企業が事前に行うデューデリジェンス |
その他のデューデリジェンス(その他のDD) | 不動産デューデリジェンスや環境デューデリジェンス |
2-1.ビジネスデューデリジェンス(ビジネスDD)
ビジネスデューデリジェンスとは、M&Aの対象企業(買収先)の競争優位性や独自の強み、弱み、将来性を分析し、買収元とのシナジー効果がどれくらい発生するのかを調査することを言います。
他のデューデリジェンスが対象企業の現状や過去のことを調査するのに対し、ビジネスDDでは将来の収益性など、未来について分析することが目的となります。
M&A後の事業戦略や事業計画の修正もビジネスDDの役割です。
また、ビジネスDDによるシナジー効果の測定は、M&Aの適正金額の判断に大きな影響を与える項目であるため、DDの中でも非常に重要な項目になります。
2-2.財務デューデリジェンス(財務DD)
財務デューデリジェンスは、財務・会計に関する調査のことを指します。
対象企業が抱える財務リスクを明らかにし、買収元がM&A後に不利にならないようにすることが目的です。
例えば、M&A後に負担が生じる簿外債務がある場合には、買取り金額からその負担額を減額するなどの交渉を行います。
財務DDは専門性の高い分野であるため、公認会計士などの外部専門家に依頼する場合が一般的です。
対象企業が開示した資料が正確であるか、矛盾点はないかについての調査のほか、経営陣や経理部へのインタビューなどを通して結果の取りまとめを行います。
2-3.税務デューデリジェンス(税務DD)
対象企業の税務に焦点を当てて行う調査を税務デューデリジェンスと言います。
税務DDでは、対象企業の法人税申告書や過去の税務調査における指摘事項、税務調査が行われた場合に税務上問題になると思われる事項などの調査を行います。
税務DDについても専門性の高い分野であるため、法人税等の専門家である税理士に依頼する場合が一般的です。
特に海外が絡むクロスボーダー取引がある場合や海外子会社がある場合には、移転価格税制などの影響を受けることになるため、高度な専門性が要求されます。
2-4.法務デューデリジェンス(法務DD)
組織の体制や規則、株主の状況、取引先との契約状況、許認可やコンプライアンスが法律的に適正な状況であるかどうかの調査を法務デューデリジェンスと言います。
法務DDは多岐にわたり、個別の契約内容はもちろん、訴訟や紛争になっているものがないか、また潜在的に訴訟や紛争リスクがあるものがないかなどの調査も行われます。
近年では、社会全体のコンプライアンスへの意識が高まっており、書面上の調査だけではなく、インタビューを通じて法務DDを行うケースがほとんどです。
法務DDについては高度な法律に関する知識が必要であるため、弁護士に依頼するケースが一般的です。
2-5.労務デューデリジェンス(労務DD)
労務デューデリジェンスは「人」に関する調査です。
M&Aが実施されると、従業員のモチベーションの低下や優秀な人材の離職などの労務リスクが発生することがあります。
これらの労務リスクを早期に把握し、解決することが労務DDの1つの役割です。
また、労働基準法違反のリスクはないのかについても、法務DDと連携して行う必要があります。
一般的には、人事労務関連の潜在的なリスクを評価する業務は社会保険労務士が適任であるため、労務DDを社会保険労務士に依頼するケースもあります。
2-6.ITデューデリジェンス(ITDD)
DX化の進む環境では、ITインフラについても調査しなければなりません。
M&A後に想定していなかったIT投資やコストが発生してしまうと買収元が不利になってしまうため、ITデューデリジェンスにより調査を行います。
「対象会社にどのようなITインフラが構築されているのか」「既存のIT設備に資産価値はあるのか」「情報漏洩や情報セキュリティ違反などのリスクはないか」「M&A後にシステム統合を進めるうえでリスクはないか」など、IT関連について網羅的に調べます。
2-7.セルサイドデューデリジェンス(セルサイドDD)
セルサイドデューデリジェンスとは、他の買収元が行うデューデリジェンスとは異なり、売り手企業が事前に行う調査のことを言います。
M&Aにおける買収元のデューデリジェンスで何かしらのリスクが発見されると買収元は買収価格の減額を要求してきます。
売り手が事前にセルサイドDDを行い、買い手のDDに十分対応できるように予めリスクや解決策を把握し、対策を講じることでM&Aをスムーズに進めることが可能になります。
2-8.その他のデューデリジェンス(その他のDD)
紹介したDD以外にも、環境デューデリジェンス、不動産デューデリジェンス、知的財産デューデリジェンスなど、対象企業の業種や形態によって様々なDDが考えられます。
対象企業に合わせてどのようなDDを実行するのかを決めるといいでしょう。
デューデリジェンスの主な流れ
デューデリジェンスの種類は様々ですが、大まかなプロセスは次のような手順で行われます。
3-1.①調査チームを結成し、資料の分析
買収元企業は、対象企業に資料開示請求を行い、M&Aに関わる全ての資料の提出を求めます。
資料の分析には、それぞれのデューデリジェンスごとに担当者と公認会計士や税理士などの専門家でチームを結成して取り組み、書類面での分析を先行して行います。
3-2.②現状の確認
書類だけでは見えてこない部分については実際に現地を訪れ、現状の確認が必要です。
対象企業が保有している不動産の外観や経年劣化の具合、土地の境界などを専門家とともに確認します。
財務DDでは、帳簿の固定資産が存在しているのかどうかなど、実際に目で見て確認することが重要です。
3-3.③聞き取り調査
現地確認と並行して、経営者や役員、事業部の担当者など、マネジメント層への聞き取り調査を行います。
インタビューを通して資料の分析では見えてこなかった実情が見えてくることもあり、M&A後の方針の決定や課題の解決に役に立ちます。
3-4.④報告書を作成し、結果を報告
資料分析や現状の確認、聞き取り調査の結果をもとにデューデリジェンスの報告書を作成し、報告を行います。
買収元で明らかになったリスクや問題点について議論を行い、リスクが大きすぎる場合はM&Aの中止も視野に入れて検討を行います。
検討後に、M&A実行の可否、買取り価格の交渉が行われることになります。
デューデリジェンスの注意点
4-1.調査範囲をある程度絞り込む
デューデリジェンスは買収元にとっては必要不可欠である手続きですが、調査が行われる対象企業の経営者にとっては負担の大きな手続きです。
買収元がデューデリジェンスを行う際は、全てのリスクがなくなるまで時間をかけてくまなく調査するのではなく、調査範囲をある程度絞り込み、効率的に調査を行うことが重要です。
4-2.外部の専門家に依頼することも重要
デューデリジェンスには高度な知識が必要になるため、公認会計士などの専門家へ依頼することが一般的です。
「デューデリジェンスにあまり費用をかけたくない」という理由で専門家へ依頼せず自社の担当者だけで調査を行ってしまうと大きなリスクを見逃してしまい、M&Aが失敗に終わってしまうリスクが高まります。
各デューデリジェンスに最適な専門家を見極め、自社担当者とのチームワークを高めていくことがM&Aの成功に繋がります。
4-3.情報管理を徹底する
買収元は対象企業の機密情報を知ることになるため「秘密保持契約」を締結することになります。
そのため、調査の過程で入手した情報などについては細心の注意を払い、徹底した情報管理を行いましょう。
まとめ
デューデリジェンスはM&Aに必ず必要な調査であり、M&Aの成功を左右すると言っても過言ではありません。
高度な知識を持つ専門家をチームに迎え、対象企業のリスクを絞り込み、効率的な調査を行いながらスムーズに結果報告まで行える体制を整えることはデューデリジェンスで最も重要な部分です。
Star Member(スタメン)公認会計士・税理士事務所及び株式会社日本会計サービスは、デューデリジェンスのご依頼に対応しております。
対象企業の財務リスクや将来の収益性などをしっかりと調査し「成功するM&A」を目指して尽力いたします。
M&Aについてはぜひ当事務所にご相談ください。
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