公開日:2025/3/17
M&Aとは?意味・目的・流れなどの基本を徹底解説!


StarMember公認会計士・税理士事務所
代表 山田俊輔(公認会計士・税理士・経営心理士)
あずさ監査法人にて、東証一部上場企業の会計監査、上場準備会社の監査、会社買収時のデューデリジェンス業務等を担当。
2010年に独立開業し、Star Member (スタメン)公認会計士・税理士事務所と株式会社日本会計サービスを立ち上げ、連結売上1,000億円超の社外取締役や売上数百億円~数億円の会社の取締役、監査役などを務める。2017年には野村證券なんば支店アドバイザリーボードメンバーにも選任。
企業が合併や買収を行うことをM&Aと言い、他社の経営資源の活用やシナジー効果により、事業の存続・拡大を目的として実施されます。
かつては派手な買収劇が報道されていたため「身売り」「敵対的買収」「ファンドによる乗っ取り」といった悪いイメージを持たれている方もいるかもしれませんが、近年ではM&Aは身近なものになっており、大企業だけでなく中小企業でも事業承継を目的として一般的に活用される方法になってきています。
ここでは「M&Aの概要と目的や流れなど、M&Aの基本」について徹底解説します。
「M&Aって何だか怖い」と思われている方でも、基本がわかれば「後継者対策で利用できるかもしれない」と前向きな判断ができるようになります。ぜひ、最後までお付き合いください。
M&Aの意味
M&Aは英語の「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」を略したものです。
直訳では2つの企業が1つに合併したり、企業が他の企業の株式を買い取ったりすることを指しますが、広義でのM&Aは企業同士の資本提携や業務提携を含めることもあります。
1-2.M&A件数の推移
経済産業省「中小企業白書」の統計(㈱レフコデータ調べ)では、2010年以降M&A件数が増加していき、2022年には過去最高の年間4,300件のM&Aが実施されました。
その背景には、市場縮小による大企業の「集約化」と「グローバル化」と中小企業の「後継者不足」が考えられます。
今後についても、現状の増加傾向が数年間続くと考えられており、中小企業の後継者不足対策としてのM&Aが増加していくと思われます。
(出典:経済産業省:中小企業白書)
M&Aの目的とは?
M&Aは、買収される側(合併される側)と買収する側(合併する側)それぞれに目的があり、利害が一致したうえで行われる「契約」です。M&Aでよく見られる両者の目的について見ていきましょう。
2-1.買収される側(合併される側)の主な目的
2-1-1.後継者問題の解決
近年では、いわゆる「団塊の世代」にあたる経営者が引退の時期を迎えており、後継者問題が社会問題になっています。
後継者になる子どもや従業員がいない場合や後継者がいても経営者としての育成が進んでいない場合には、会社が廃業の危機に陥ってしまいます。
廃業してしまうと、会社で働いている従業員の雇用を守れず、これまで支援してもらった取引先にも大きな影響を及ぼすことになります。
後継者不足の解決方法としてM&Aは非常に有効な方法です。
M&Aを活用し、第三者(企業)に経営権を譲渡することで、会社を存続させることが可能です。
2-1-2.従業員の雇用を守ることができる
M&Aにより廃業を回避することは「従業員の雇用を守る」ことに繋がります。
M&Aでは、基本的に従業員の雇用、労働条件がそのまま引き継がれます。
もし、買収先の企業の労働条件が良かった場合には、同じ企業グループとして労働条件を合わせることにより、給与などの処遇が改善される可能性もあります。
2-1-3.経営を強化することができる
M&Aにより、買収企業のグループ企業になることで買収企業の経営資源を活用することができるようになり、これまで資金不足で着手できなかった事業への取り組みなど、経営を強化することができます。
また、「買収企業が保有する技術やノウハウを得ることができる」「販路の共有」など、シナジー効果を活用し、飛躍的な事業成長が期待できます。
2-1-4.創業者利益を確保できる
M&Aは、売却企業の株主が株式を買収企業に売却することで成立します。
株式の譲渡対価は株主が受け取るため創業者利益を確保することができます。
通常は、上場していない非上場株式の現金化は難しいですが、M&Aで現金化することで今後の生活費や新たな事業へ充てることができます。
2-2.買収する側(合併する側)の主な目的
2-2-1.既存事業の強化・シェア拡大
M&Aにおける買収企業の大きな目的は既存事業の強化・シェア拡大です。
売却企業が独自に持っている技術やノウハウを取り入れ、新商品の開発や新規マーケットの開拓など、既存事業の強化をスムーズに進めていくことができます。
自社独自で進めると研究や教育に多大な時間とコストがかかってしまうケースであっても、既に技術とノウハウを確立している企業を買収することで、時間をかけずに技術やノウハウを手に入れることが可能です。
また、売却企業が市場での地位を確立している場合や特定の分野における許認可などがある場合には、売却企業の市場シェア、許認可などをそのまま引き継ぐことが可能です。
2-2-2.人材を引き継ぐことができる
企業にとって人材は重要な経営資源の1つです。
業界・業種の中には、人手不足が深刻化しており、人材確保が難しいケースもあります。
また、人材を確保するためには募集・採用から始まり、教育や研修が必要となり、人材育成には多くの手間とコストがかかります。
M&Aでは、売却企業の人材をそのまま引き継ぐことができ、熟練した技術やノウハウを持つ人材を取り込むことで即戦力としての活躍が期待できます。
2-2-3.新規事業への参入障壁を軽減
M&Aでは、同業種の企業を買収するのではなく、新規参入を目指している業種の企業を買収し、新規事業への参入障壁の軽減を目的とするケースも少なくありません。
新規事業の参入は、多大な資金と時間が必要になり、事業が軌道に乗るかどうかのリスクを伴います。
M&Aにより、既にある程度の市場シェアを持っている企業を買収することで、販路や技術、ノウハウを持った状態で新規参入が可能になります。
2-2-4.M&Aではシナジー効果を得られる
M&Aにおけるシナジー効果(相乗効果)とは、1+1=2ではなく、3や4以上の価値が生じることを言います。
シナジー効果の種類は多種多様ですが、主に次のようなシナジー効果を期待することができます。
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M&Aにおける問題点や課題
M&Aにはメリットだけでなく、問題点や課題があることも理解して検討を進める必要があります。
M&Aでよく見られる問題点や課題について見ていきましょう。
3-1.買収される側(合併される側)の主な問題点や課題
3-1-1.買い手が見つからない場合がある
M&Aで会社を売却したいと思っても、買い手が見つからなければどうしようもありません。
売却条件が難しかったり、他にいい条件で売却を検討している会社があったりすると買い手が見つからず、廃業の危機に追い詰められてしまうこともあります。
自社が理想とする買い手を見つけるためには、M&A仲介会社やマッチングサイトを活用したり、取引先などのネットワークを通じて粘り強く情報を集めたりすることが大切です。
条件面には気を配りつつ、幅広い視野からM&Aに向けて取り組んでいきましょう。
3-2.買い叩かれるリスクがある
買い手が「ぜひ売却してほしい」とM&Aを申し込んでくるケースでは問題ありませんが、事業承継を望んでいる場合など、売り手が交渉で不利な立場になるケースでは、株式の買い取り価格を低めに設定され、買い叩かれてしまうリスクがあります。
買い叩かれないためには、自社の有利な点を把握し、専門家とともに交渉に臨むことが大切です。
3-3.取引先から受け入れられないリスク
買収によって取引先との条件に変更が生じる場合、これまで築き上げてきた信頼関係にひびが入り、関係が悪化する可能性があります。
特に、中小企業では人と人との付き合いが重要視されており、オーナーが変わることを理由に取引を継続してもらえないケースも考えられます。
3-2.買収する側(合併する側)の主な問題点や課題
3-2-1.帳簿に記載がない負債を引き継いでしまう可能性がある
M&Aでは、株式譲渡などの方法により、会社そのものを引き継ぐことになります。
そのため、貸借対照表に計上されていない負債を引き継いでしまう可能性があります。
代表的なものには、未払い残業代や退職給付引当金、債務保証、訴訟のリスクなどがあり、契約が成立する前にしっかりと把握する必要があります。
対策としては、専門家に依頼してデューデリジェンスを徹底したり、承継するものを選択できる手法を利用したりするといいでしょう。
3-2-2.経営再建・経営統合が失敗するリスク
経営不振の会社を買収する場合、経営再建が課題になります。
うまく経営再建ができれば問題ありませんが、経営再建が思うようにうまくいかない場合、親会社の経営にも大きな影響を与えるためリスクになってしまいます。
また、経営不振でない会社を買収した場合でも、その後の経営統合がうまくいかず、シナジー効果が低下してしまうおそれがあります。
経営統合では、会社理念や経営方針、業務内容、組織体制などを統合していかなければならず、非常に時間と労力がかかる手続きになりますので、焦らずにじっくりと行っていくことが重要です。
3-2-3.人材が流出してしまうリスク
M&Aにおいては、人材流出は絶対に避けるべきリスクです。
オーナー同士が合意したM&Aであっても、従業員が納得しておらず、将来の不安を覚えて退職してしまう場合も考えられます。
人材が流出してしまうと、買い手が期待していたシナジー効果が得られなくなってしまうこともあるため、M&Aを行う前に従業員へのヒアリングを行い、リスクを最小限に抑えるようにしましょう。
【売り手・買い手別】M&Aの具体的な流れを解説
「M&Aに興味があるが、実際にどのような手続きが必要なのか分からない」と思われている方もいらっしゃると思います。
ここでは、売り手・買い手別のM&Aの具体的な流れについて解説します。
4-1.売り手側の流れ
売り手の流れは「準備→交渉→契約」の流れでM&A手続きが進みます。
M&A手続きで重要なことは「M&Aの目的を明確にすること」です。
準備の段階で目的を明確にし、過去三期分の財務諸表を用意し、相手探し(ソーシング)に備えましょう。
相手探しでは、買い手が売り手を探すだけでなく、売り手が匿名で特定されない範囲で事業内容や売上規模などを記載したノンネームシート(NN)を作成し、買い手にアピールすることができます。
相手が見つかると交渉の段階に入ります。交渉の段階では、相手の会社名などを含め秘匿性の高い情報を取り扱うため秘密保持契約の締結を行います。
売り手は、買い手が企業分析を行う上で必要になる資料(案件概要書)を提示し、企業分析後に代表者同士の会談が行われ、M&Aの基本合意書の締結を行います。
基本合意書を締結した後は、買い手によるデューデリジェンス(実態調査)が行われ、最終条件の交渉後、双方の合意のもと契約完了になります。
契約後は株式や事業の引き渡しと対価の支払いを完了させクロージングとなります。
4-2.買い手側の流れ
買い手の場合も同様に「なぜM&Aを行いたいのか」を明確にしたうえで、準備を進めていきます。
相手先を探す方法は、仲介者を通して探す方法が一般的です。
特定の業界を対象として相手を探す場合にはM&Aを行う候補先をリスト化した「ロングリスト」を作成し、順番にアプローチしていくことになります。
相手が見つかると、もっと詳細な情報を得るために秘密保持契約の締結を行い、売り手から案件概要書を受け取り、売り手企業の分析を行います。
分析を行い、買い手がM&Aを進めたいと判断すると、代表者同士での会談に移ります。
会談で問題がなければ基本合意書を締結し、買い手側が売り手のデューデリジェンスを行います。
デューデリジェンスでは、専門家を交えて法務・財務など、様々な観点から売り手企業の価値やリスクを調査します。
調査の結果、問題がなければ最終条件交渉となり、双方の合意のもと最終契約が行われます。
契約後は株式や事業の引き渡しと対価の支払いを完了させクロージングとなります。
買い手は、経営統合手続きを進めていくことになるため、契約が締結したといって終わりではなく、様々な手続きが待ち構えています。
焦らずにじっくりと行っていくことが重要です。
まとめ
M&Aは、事業承継や創業者利益の確保など、様々な目的で利用されていますが、メリットがある一方で、しっかりと問題点や課題を把握して対応しなければ取り返しのつかない事態になってしまうリスクもあります。
M&Aを成功させるには、細かなプロセスやルールを踏まえたうえで、自社にあった戦略を考え、実施していくことが重要です。
Star Member(スタメン)公認会計士・税理士事務所及び株式会社日本会計サービスは、M&Aに関するご相談に対応しております。
売り手企業・買い手企業、どちらのご相談においても「成功するM&A」を目指して尽力いたします。
M&Aについてはぜひ当事務所にご相談ください。