公開日:2024/10/17
経理DXとは?経理DXが求められる理由やメリット・デメリットを解説!
StarMember公認会計士・税理士事務所
代表 山田俊輔(公認会計士・税理士・経営心理士)
あずさ監査法人にて、東証一部上場企業の会計監査、上場準備会社の監査、会社買収時のデューデリジェンス業務等を担当。
2010年に独立開業し、Star Member (スタメン)公認会計士・税理士事務所と株式会社日本会計サービスを立ち上げ、連結売上1,000億円超の社外取締役や売上数百億円~数億円の会社の取締役、監査役などを務める。2017年には野村證券なんば支店アドバイザリーボードメンバーにも選任。
DX化(デジタルトランスフォーメーション)は、アナログからデジタルへ変化することにより企業の「生産性の向上」「コストの削減」「働き方の改革」の実現を目指すことを指します。
企業の経理部門も例外ではなく、DXを取り入れた経理のことを「経理DX」と呼びます。
経理部門は売上に直結する部門でないことから、システム改修などの設備投資が後回しになってしまいがちです。
しかし、経理部門のDX化は業務の効率化だけでなく、リモートでの業務が可能になるなど、従業員の新しい働き方にも直結します。
ここでは「経理DXの基本、求められる理由やメリット・デメリット」について詳しく解説します。
「経理DXに興味があるが何をどうしていいのかわからない」という方は、ぜひ最後までお付き合いください。
1.そもそもバックオフィス業務における経理DXとは何か
バックオフィス業務とは、経理や人事、総務など「顧客と関わることが少ない職種や業務」のことを指します。
バックオフィス業務をDX化と聞くと「ITツールを導入するだけだから簡単なのでは?」と思われる方もいると思いますが、DXの概念は業務をデジタル化したうえで「組織やビジネスの変革」を行うことであるため、バックオフィスにITツールを導入しただけではDXを実現したとは言えません。
1-1.経理DXとは?
バックオフィスの中でも経理DXとは、現状の問題点である「紙・ハンコ文化、手作業、作業の属人化、データの散財」などを把握し、ITツールやデジタル技術を活用することで現状の課題を解決し、財務面での経営状況を限りなくリアルタイムで経営陣に伝えることができる体制を創り上げることを言います。
変化が激しい現代社会においては、リアルタイムでの行動・分析が求められる時代です。
「試算表がひと月、ふた月遅れて完成する」という状況では、変化に対応した経営を行うことはできません。
経理DX化は、経理のデジタルシフトにより「より早く、より柔軟な経営」を実現する重要な変革に繋がります。
2.経理業務にDXが求められる理由
「売上を生まない経理業務をDXにする必要性を感じない」という意見がある一方で、最近では「経理業務にこそDXが必要だ」という意見が主流になってきています。
なぜ、経理業務にDX化が求められているのでしょうか。
理由を見ていきましょう。
2-1.市場環境の急速な変化
デジタル技術が急速に発展する中で、昔ながらのアナログでの経理や組織体制では、最新のテクノロジーを積極的に活用する競合相手についていくことができません。
市場環境が急速に変化する社会では、常に新しいテクノロジーを取り入れ、スピードを意識しながら競争力を維持する必要があります。
2-2.データの活用による経営の高度化
経営とは、経理業務によって作成、検証されたデータをもとに業績の把握や資産管理を行い、将来の意思決定を行うことです。
市場環境の変化が激しいビジネス環境では、正確で最新のデータをいかに早く活用することができるのかが企業が生き残る鍵になります。
企業に求められる経理とは、過去のデータを活用し、企業の将来に関する予測を提供できるように最適化した財務情報を作り上げることです。
そのためには経理のDX化が必要不可欠であり、求められる理由になっています。
2-3.業務効率の向上とコスト削減
経理業務は、会計に関する知識など専門性の高い業務であるため、人材不足に陥る傾向が強く、ベテラン社員により属人化してしまうケースが多い分野でもあります。
また、改正電子帳簿保存法やインボイス制度など、経理業務に大きな負担がかかる制度が制定され、人手不足が加速しています。
経理のDX化は、業務の属人化の防止と人手不足の解消を担い、さらに業務効率の向上とコスト削減を実現できる方法であるため、多くの会社が経理のDX化を進めています。
3.経理DXによるメリット
経理のDX化によるメリットは企業の状況によって様々です。主なメリットについて見ていきましょう。
3-1.業務効率の向上
従来の経理業務は、請求書などの帳票の発行作業や経費精算書の確認、領収書原本のファイリングなど、手作業で行う業務が非常に多い分野です。
この手作業部分をデジタル化することで業務効率が上がり、削減できる時間を他の作業に充てることができ、人手不足を解消することにも繋がります。
例えば、請求書を1通発行する場合であっても、印刷、押印、封入、宛名書き、切手を貼って投函する必要があり、多くの手作業が発生します。
電子請求書発行システムを活用し、デジタル化を取り入れれば、請求書をすぐに発行することができ、発送作業に費やしていた時間を削減することができます。
また、会計システムと連携させることで、会計仕訳が自動作成されるため、さらに業務効率化を図ることが可能になります。
3-2.コスト削減
経理のDX化をすることができれば、これまでの業務の中で発生していたコストを幅広く削減することが可能です。
削減可能な代表的なコストとして挙げられるものは「紙に関するコスト」です。
請求書などの帳票をデジタル化することで、印刷コスト、封筒代、切手代などを削減することができ、さらに膨大な帳票を保管する倉庫が必要なくなり、その場所を有効利用することもできます。
3-3.リアルタイムでの会社の状況が分かる
近年では、DX化により収集した膨大なデータを分析、活用を行い、スピード感を持って経営に反映する「データドリブン経営」が注目されています。
経理をDX化することにより、財務に関する様々なデータをリアルタイムで分析することができるようになり、精度の高い意思決定を迅速に行えることが可能になります。
また、業績のちょっとした変化から顧客ニーズの変化を捉え、商品開発や改善につなげることもできるようになります。
4.経理DXを行うことのデメリットと解決策
経理DXには次のようなデメリットがあります。
解決策と合わせて見ていきましょう。
4-1.導入にかかる初期コストの問題
経理のDX化にはシステムへの投資など、初期コストがどうしてもかかってしまいます。
どの部分の業務フローをデジタル化するのか、他のシステムとの連動を行うのかどうかによって必要なコストは異なりますが、一般的な経理DXには約50万円から200万円の初期投資が必要になるでしょう。
中小企業のDX化に関するコストについては「補助金」が用意されており、上手く活用することで負担を少なくすることが可能です。
4-1-1.IT導入補助金
中小企業や小規模企業者等がITツールを導入し、DX化・業務効率化を行う場合に補助金を受け取れる制度です。
ソフトウェアやサービスなどが対象になっており、導入前に審査を受け、採択される必要があります。
補助金には、目的に応じた5つの類型が用意されており、それぞれ補助率、補助額が異なるため、自社の状況に応じて選択しましょう。
4-1-2.小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、働き方改革や賃上げ、インボイス制度へ対応するために小規模事業者が取り組む販路開拓に対してかかる経費の一部を補助する制度です。
販路開拓や業務効率化のためにDXを利用する場合、補助金の申請が可能であり、通常枠で最大50万円の補助を受けることができます。
4-2.従業員の抵抗や不安
経理DX化には「人的課題」が問題になるケースがあります。
デジタル技術が発達しても、それを使いこなすためには人の力は欠かせません。
従業員のITスキルが不足しており、システムの理解や操作がスムーズにできなければ経理DXの効果が発揮されません。
また、慣れ親しんだやり方を新しい方法に変えることに抵抗感や不安を覚える従業員も少なくありません。
これらの人的課題を解決するためには、社内での勉強会を開催し、経理DXに関する共通の理解を持つことが重要です。
外部の専門家に依頼し、従業員へのサポート体制を整えることで従業員の抵抗感や不安を和らげることもできます。
4-3.セキュリティリスクへの対策
総務省が実施した調査(2021年)では、デジタル化が進んでいない理由の1位が「情報セキュリティやプライバシー漏えいへの不安(52.2%)」で最も多い結果となっています。
経理のDX化は業務効率化ができる反面、セキュリティや法令遵守の面でのリスクが高まります。
セキュリティへの万全の対策を講じなければ、企業の重要な財務データが不正アクセスや漏洩などによって外部に流出する可能性も考えられます。
セキュリティリスクへの対策では、デジタル技術を導入する前にセキュリティや法令遵守の要件を明確にし、その要件に合うツールを選択する必要があります。
また、導入後も定期的なセキュリティチェックや従業員に対してセキュリティの意識を高める教育を行うことが重要です。
5.経理DXを行うためのSTEPとポイント
経理DXを導入する場合は、次のステップに分けて進めていくと効果的です。
5-1.STEP1:現状の経理業務を分析する
まずは、自社の経理業務の現状を把握する必要があります。
日々の業務を洗い出し、現在の業務フローの確認を行いましょう。
どの業務にどれだけの作業量があるのかを意識しながら進めると、その後の業務フローの改善に役立ちます。
5-2.STEP2:経理DXの目標と方針を設定する
現状を把握したら、経理DXの目標と方針を設定します。
様々な企業の経理DXを参考に、自社の経理DXをどのような方向性で進めていくのかを決め、将来の姿を思い描きながら目標と方針を設定しましょう。
5-3.STEP3:業務フローの見直しと改善
STEP1で把握した現状の業務フローの見直しや改善の検討を行います。
「本当に必要な業務なのか」「ただ前任者の引き継ぎで続けている業務ではないのか」「業務が重複していないか」など、業務の必要性を再度確認しましょう。
経理DXを行う際には、この業務フローの見直しと改善は非常に重要です。
次のステップである適切なツールの選定を意識し、業務の最適化について考えてみましょう。
5-4.STEP4:適切なツールを選定・導入
自社の経理DXに合ったITツールの選定を行います。
外部の専門家やコンサルタントと協議し、どのようなツールが自社に適しているのかを検討し、ツールやシステムの理解を深めていきましょう。
導入する際のプロセスやコスト、導入後の保守やランニングコスト、拡張性など、しっかりと調査したうえで導入するようにしましょう。
5-5.STEP5:運用と定着化
続いて、導入したツールを実際に運用してみます。
従来のシステムからDXへスムーズに移行するためには、一定期間両方のシステムを並行して利用し、トラブルを回避するようにしましょう。
5-6.STEP6:経理データの活用・分析
DXの運用が定着してきたら、経理データを分析し、経営判断の資料として活用できる体制を整えます。
リアルタイムに近いスピードで経理データを利用することで、変化の早い多種多様な顧客ニーズに対応していくことが可能になります。
5-7.専門家へ相談することも一つの手段
経理DXに必要な知識やノウハウ、人材、時間などが社内で不足している場合は、外部専門家への相談することも1つの方法です。
ITツールに強い税理士に相談することで、業務フローの改善だけではなく、税務や会計の視点からの専門的なアドバイスをもらうことができます。
Star Member (スタメン) 公認会計士・税理士事務所では、経理DXのご相談も承っております。
クラウド型の会計ソフトの導入支援や運用支援など、DXによる業務効率化をご支援しています。
無駄な作業を排除して工数削減を目指して参りますので、お困りの際は、ぜひ一度お声がけください。
6.経理DXの事例
経理業務のDX化は、クラウド会計の導入を軸に行うケースが一般的です。
クラウド会計ソフトを導入した事例について見てみましょう。
<導入前>
税理士事務所に記帳作業の代行を依頼していたため、試算表の金額を把握するまでにひと月以上のタイムラグが発生していた。
試算表の詳しい中身を知りたい場合には税理士事務所に問い合わせる必要があり、手間がかかっていた。
<導入後>
会社の預金口座やクレジットカード、請求書などの帳票とクラウド会計ソフトを自動連携させたことで、自社で記帳作業を行えるようになった。
税理士事務所には月に1回帳簿の中身を確認してもらっているが、基本的にはリアルタイムで会社の業績を把握することができるようになった。
まとめ
「経理のDX化」と聞くと「ITに詳しくないとできない」「初期投資に多額の資金が必要」など、難しいイメージを抱くかもしれませんが、一度に全ての業務を見直すのではなく、できるところから少しずつ自動化することで過度な負担なく業務効率化を進めていくことができます。
Star Member(スタメン)公認会計士・税理士事務所は、DX化に取り組む企業を応援しています。
クラウド会計各種に対応しておりますので、経理のDX化を検討されている場合は、お気軽にご相談ください。