事業承継・M&A

公開日:2026/2/17

企業価値向上とは?重要視される背景と5つの具体的な施策・計算式を解説

この記事の監修
山田俊輔

税理士法人オンデック
代表 山田俊輔(公認会計士・税理士・経営心理士)

あずさ監査法人にて、東証一部上場企業の会計監査、上場準備会社の監査、会社買収時のデューデリジェンス業務等を担当。
2010年に独立開業し、税理士法人オンデック公認会計士・税理士事務所と株式会社日本会計サービスを立ち上げ、連結売上1,000億円超の社外取締役や売上数百億円~数億円の会社の取締役、監査役などを務める。2017年には野村證券なんば支店アドバイザリーボードメンバーにも選任。

「企業価値向上」という言葉を耳にすると、多くの経営者はM&Aや会社売却を連想されるかもしれません。

「うちはまだ売却を考えていないから関係ない」「数字上の理論で、実務とは乖離しているのではないか」といった理由から企業価値を客観的に測る必要性を感じていない方もいるでしょう。

しかし、企業価値を測ることは、M&Aや会社売却のためだけのものではなく、経営全般の質を高めるための重要な指標です。

企業価値は、会社の現在地を知り、将来への道筋を示す「経営の羅針盤」といえるでしょう。

ここでは、企業価値の定義から、企業価値を構成する要素、具体的な向上施策、そして計算方法までを解説します。

企業価値の向上を測ることは「日々の経営の質を磨き上げる取り組み」そのものですので、ぜひ最後までお付き合いください。

企業価値とは?

企業価値(Enterprise Value, EV)とは、一言で言えば「企業全体の経済的価値」を指す指標です。

これは、その企業を丸ごと買い取る際に必要となる理論上の金額と考えることができます。

1-1.時価総額・事業価値との違い

企業価値を理解するため「時価総額(株式価値)」と「事業価値」との違いを明確にすることが重要です。

時価総額(株式価値)とは、主に株主が持つ株式の総価値を示すものであり、上場企業の場合は「株価 × 発行済株式数」で計算されます。

一方、事業価値とは、企業の本業である事業活動から将来生み出されるキャッシュ・フローの現在価値を指します。

事業価値に、本業には使われていない「非事業用資産」を加えたものを「企業価値」と言います。

実務上、企業の「価値」は、将来の成長性やリスク評価の視点など、買い手と売り手によって異なる尺度で評価される「一物多価」の性質を持ちます。

中小企業では、株式が市場で取引されていないため、上場企業のように客観的な「市場価格」を計算することはできません。

そのため、将来の収益予測や保有資産の実態を基に、多角的な視点から価値を算定する必要があるのです。

なぜ今「企業価値向上」が重要なのか?企業価値向上のメリット

企業価値を高める目的は、会社を高く売ることだけではありません。

むしろ、日々の経営を安定させ、将来に向けて強い経営基盤をつくるという大きなメリットがあります。

2-1.資金調達力の強化

企業価値が高いと評価されるのは「この会社は安定していて、今後もきちんと利益を生み出せそうだ」と外部から信頼されている状態を意味します。

金融機関は、現在の売上や利益といった数字だけでなく、将来どれだけ成長できるかという「事業の将来性」も見ながら融資を判断しています。

そのため、自社の強みや収益の仕組みを整理し、実現性の高い事業計画として見える形にしておくことで、資金調達の条件が良くなる可能性があります。

また、あらかじめ自社の価値を分かりやすく説明できる状態にしておけば、金融機関とのやり取りもスムーズになり、信頼関係の構築にもつながります。

2-2.M&A(買収・売却)における交渉力の向上

将来、M&Aを選択肢として考えるなら企業価値を高めておくことは大きな武器になります。

企業価値が高ければ、条件交渉でも主導権を握りやすく「売るしかない」という立場ではなく「数ある選択肢の一つとしてM&Aを検討する」という余裕を持って判断することができるでしょう。

反対に企業価値が低い状態では、相手の提示条件を受け入れざるを得ない、いわば「売らされる」状況に陥る可能性もあります。

さらに、自社が他社を買収する立場になった場合でも、企業価値を意識した経営は重要な判断軸になります。

加えて、事業承継を見据える場合には、安定した経営基盤を整えておくことが、後継者の負担を減らし、スムーズな引き継ぎにも繋がるでしょう。

2-3.人材採用への好影響

企業価値が適切に評価されている会社は、独自のノウハウや安定した収益基盤といった強みが社外にも伝わりやすく、魅力的な企業として認識されます。

近年は、社員教育や働きやすい環境づくりなど、人的資本への投資が企業価値を高める要因になっており、社会から高く評価されている企業はそれ自体が信頼の証となります。

その結果、優秀な人材を引き寄せやすくなり、組織全体の活性化にも繋がるでしょう。

2-4.資本コストへの意識強化

これからの経営では、利益を出すだけでなく「資本コスト」を意識することが重要になっています。

資本コストとは、会社が資金を調達する際に実質的に負担しているコストのことです。

投じた資金に対してどれだけ効率よく利益を生み出せているか、それを上回っているかどうかが企業価値を高めるポイントになります。

このような視点を持つことで、利益を生まない事業を見直したり、限られた人材や資金をより成長性の高い分野へ振り分けたりと、経営資源の最適な配分がしやすくなります。

企業価値を構成する「3つの要素」

企業価値を高めるには、まず「何が企業価値を構成しているのか」を分解して理解することが大切です。

3-1.事業価値

事業価値とは、本業そのものがどれだけ安定して利益を生み出す力を持っているかを指します。

これは過去の利益が多いかどうかではなく「将来も継続して利益を生み出せるか」という再現性や成長性が重視されます。

実務では、投じた資本に対してどれだけ効率よく税引後に利益を生み出しているかを示す ROIC(投下資本利益率) が、重要な判断指標の1つとして使われます。

3-2.非事業用資産

非事業用資産とは、本業で直接使用していない資産のことで、遊休不動産や余剰資金、事業に関係のない有価証券などが該当し、一般的には時価で評価され企業価値に加算されます。

ただし、稼働していない資産を過剰に保有すると資本効率の低下につながる可能性があるほか、含み益のある資産を将来売却する場合には、発生が見込まれる税金(繰延税金負債)を考慮して実質的な価値を調整する必要があります。

3-3.有利子負債

有利子負債とは、銀行借入や社債など、利息を付けて返済する必要のある負債のことです。

適正な範囲であれば、金利の節税効果などを通じて資本コストを抑える「財務レバレッジ」として企業価値の向上に役立ちますが、事業規模やキャッシュ・フローに見合わない過度な借入は倒産リスクを高め、企業価値を大きく損なう要因にもなります。

企業価値を高めるための具体的な施策

企業価値の向上は、短期間で実現できるものではなく、日々の経営の中で、実務的な取り組みを地道に積み重ねていくことが重要です。

ここでは、特に効果の高い5つのアプローチを紹介します。

4-1. ①収益性の最大化と「利益の質」

企業価値を高めるためには、売上を伸ばすことだけを考えるのではなく、安定して利益を生み出せる仕組みをつくることが重要です。

特定の顧客や経営者個人に依存した状態(属人化)を避け、継続的に収益が上がるビジネスモデルを整えることで、企業価値の評価は高まりやすくなります。

また、独自のノウハウや知的財産など、他社が簡単に真似できない強みを持つことで「価格決定力」が生まれ、適正な利益率を維持しやすくなり、結果として収益の質の向上に繋がります。

4-2.②無形資産への投資

決算書には表れにくいものの「知的財産」「独自のノウハウ」「顧客基盤」「人的資本」「ブランド」といった無形資産は、現代の企業価値を支える重要な要素です。

これらは将来の不確実性を減らし、安定した成長を支える土台として評価されます。

特に、社員教育や組織づくりなど「人を育てる力」が将来の収益につながるというストーリーを具体的な取り組みとして見える化することが、外部からの評価を高めるポイントになります。

4-3.③投資効率の最大化(ROICの活用)

投資を続けていても、使ったお金に見合う成果が出ていなければ、企業価値は高まりません。

そこで参考になるのが ROIC(投下した資本に対してどれだけ利益を生み出せているかを見る指標) という考え方です。

ROICを意識することで、利益につながりにくい事業や使われていない資産を見直し、成長が期待できる分野へ経営資源を集中させやすくなります。

また、日々の業務がどのように利益の改善につながっているのかを現場でも共有することで、会社全体で効率的な経営を進めやすくなります。

4-4.④財務状況の改善とキャッシュ・フローの可視化

企業価値の向上には、借入の内容や返済バランスを見直しながら、会社にどれだけ現金が残っているかを把握することが大切です。

その目安になるのが FCF(フリー・キャッシュ・フロー:本業で得た現金から必要な投資を差し引いた、自由に使えるお金) という考え方です。

FCFを意識することは、無理のない投資判断や安定した経営につながります。

一方で、決算書を良く見せるための不適切な数値操作や粉飾、オーナー企業にありがちな公私混同は、後の調査で必ず明らかになり、信用や企業価値を大きく下げる原因になるため注意しましょう。

4-5.⑤ESGSDGsへの取り組み

環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みやSDGsへの対応は、単なる社会貢献ではなく、将来のリスクを減らし、会社を長く成長させるための重要な投資です。

ただし、取り組むこと自体が目的になってしまっては意味がありません。

自社の本業の強みや競争力とどのようにつながっているのか、そしてその取り組みがどのように企業価値の向上に結びつくのかを、具体的に説明できるかどうかが評価の分かれ目になります。

企業価値の計算方法

企業価値の算定には、大きく分けて3つの考え方があります。

実務では、いずれか1つに限定するのではなく、複数の方法を組み合わせながら、妥当な価格の目安(レンジ)を検討するのが一般的です。

5-1.インカムアプローチ(将来収益ベース)

会社の価値を考える方法の1つには「これから先、どれだけお金を生み出せそうか」という将来の収益力に注目する考え方があります。

インカムアプローチとは、将来得られるお金は不確実性や時間の影響があるため、そのまま合計するのではなく「今の価値に置き換えて」評価を行う方法です。

その際の代表的な手法が DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法) であり、この方法により将来の現金収入の見込みをもとに企業の価値を計算することができます。

DCF法は、成長性や事業ごとのリスクを反映しやすいため、成長企業の評価やM&Aの場面で広く使われています。

ただし、将来の売上や利益は予測に基づくため、前提条件や見込みの置き方によって評価額が変わりやすい点には注意が必要です。

5-2.マーケットアプローチ(比較視点)

マーケットアプローチとは、類似する上場企業や、過去のM&A事例と比較して企業価値を算定する方法です。

市場の相場観を反映しやすく、客観性が高いのが特徴で「類似会社の倍」といった形で評価するマルチプル法は実務でも広く用いられています。

ただし、比較対象となる企業や事例が見つからない場合は適用が難しくなります。

5-3.コストアプローチ(純資産ベース)

貸借対照表の純資産をベースに、保有資産の価値から企業価値を算定する方法をコストアプローチといいます。

コストアプローチには、実態に合わせて資産を時価に修正する「時価純資産法」などが代表的なものになっており、中小企業の評価では基準となる計算方法としてよく使われます。

ただし、将来の収益力や成長性、いわゆる“のれん”を反映しにくい点は理解しておく必要があります。

成功事例

企業価値向上の取り組みは、日々の経営改善の積み重ねによって具体的な成果として表れます。

ここでは、実務でよく見られる代表的な事例を紹介します。

6-1.事例①ROIC導入による事業ポートフォリオの最適化

ある製造業では、これまで売上高のみを重視して事業を評価していましたが、事業部ごとの投資効率を測る指標として ROIC を導入しました。

その結果、利益は出ていても大規模な設備投資が必要で効率の低い事業が明確になりました。

そこで思い切って該当事業を縮小し、独自技術を持つ高付加価値分野へ経営資源を集中させたことで全体の利益率が大きく改善し、金融機関からの評価も向上しました。

6-2.事例②無形資産の言語化によるブランド価値の向上

技術者個人のスキルに依存していたサービス業では、独自の教育制度を整備し、「人を育てる力」を会社の強みとして社外に発信しました。

これにより人的資本という無形資産が見える形になり、採用市場での評価が上昇、優秀な人材が集まりやすくなったことでサービス品質が安定し、顧客からの信頼も向上しました。

その結果、競合より高い価格設定でも選ばれるようになり、収益力の強化につながりました。

企業価値向上を目指す際の注意点

企業価値を高める取り組みは、方向性を誤ると逆効果になることもあります。

実務では、次のような点に注意が必要です。

7-1.短期的な数値づくりを目的にしない

節税を意識するあまり必要な経費を過剰に使い切ったり、一時的な利益を出すために研究開発や人材育成への投資を削ったりすると、将来のキャッシュ・フローが弱まり、結果として企業価値の低下につながります。

7-2.自社だけで判断しようとしない

企業価値の評価は専門性が高く、経営者の思い入れなど主観が入りやすい分野です。

税理士や公認会計士など外部専門家の客観的な視点を取り入れることで、自社の真の強みや課題が明確になります。

7-3.「いつか」ではなく「今」から継続的に取り組む

企業価値は短期間で大きく変わるものではありません。

売却直前の対症療法ではなく、日々の経営の中で収益性と効率性を高め、強い経営体質を築いておくことが将来の選択肢を広げます。

まとめ

企業価値向上は、M&Aや売却のためだけの特別な施策ではありません。

収益の質を高め、無形資産を磨き、投資効率を意識するといった日々の経営改善の積み重ねが、結果として企業価値に反映されます。

まずは自社の価値構成と伸びしろを専門家と整理することが、将来に向けた第一歩になります。

税理士法人オンデックでは、経営者が築いてきた会社の価値を適切に評価し、さらなる向上につなげるサポートを行っています。

将来的な売却や事業承継を見据えている場合は、早い段階での準備が重要です。まずはお気軽にご相談ください。

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